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12月4日 RNA分解産物により自然免疫が誘導される経路(11月27日号Cell掲載論文)

2019年12月4日
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私が免疫学に強い興味を持った頃、自然免疫という概念はなかった。しかし動物を免疫するとき、あるいはワクチン接種により高い免疫反応を誘導するには必ずアジュバントが必要なことはわかっていた。その後、このアジュバント効果こそが、自然免疫により誘導される局所炎症であることがわかった。この概念を最初に私に教えてくれたのは脳腫瘍で亡くなったJannewayだが、その後この経路に関わるメカニズムの解明は急速に進み、阪大の審良さんや、東大の三宅さんなどを中心に、我が国はこの研究分野をリードしてきた。特にこの二人は、自然免疫システムが刺激される入り口、TLRやMyd88の機能研究で大きな貢献をしており、私も自然免疫というと、これらの分子から、NFkBへの経路をすぐに頭に浮かべることができる。

しかしそれぞれのTLRがどのようにリガンドを認識するのか、これは難しい問題だ。特にRNAウイルスなどを認識するシステムの場合、細胞の中に存在するRNAとどう区別するのか理解する必要がある。また、これが理解されると、新しいアジュバントを開発することができる。

今日紹介するドイツ・ミュンヘンのルードビヒ・マクシミリアン大学からの論文はTLR8を刺激する条件について明らかにした研究で11月27日号のCellに掲載された。タイトルは「TLR8 Is a Sensor of RNase T2 Degradation Products (TLR8はRNaseT2の分解産物のセンサーとして働く)」だ。

RNAが分解された産物を認識するシステムにはTLR7とTLR8が知られているが、TLR7に比してTLR8については研究は進んでいなかったようで、確かに私もあまり論文を読んだ記憶がない。この研究では両方のTLRを発現する白血球細胞株を選んで、それぞれの分子をノックアウトし、まずオリゴヌクレオチド(ON)RNA40がTLR8特異的刺激を誘導できることを確認する。

次に、多くのRNaseを検討し、ついにRNaseT2がRNA40を分解した時だけTLR8が活性化されることを発見する。この発見が研究のハイライトで、あとはTLR8を刺激できる分解産物の特定を行い、刺激に至るプロセスを一歩一歩生化学的に解明している力作といえる。

詳細なデータ紹介は省いて、現れてきたシナリオだけを紹介すると次のようになる。

例えばバクテリアが細胞内に侵入すると細菌はリソゾームで分解されるが、それが合成しているRNAはリソゾーム内のRNaseT2により、プリンとウリジン(U)の配列部位で切断し、5‘端にUを持つオリゴヌクレオチドと反対側の3’プリン基に環状フォスフェートを持つオリゴヌクレオチドを生成する。

この環状フォスフェートを持つオリゴヌクレオチドがまずTLR8に結合するが、これだけでは刺激としては不十分で、これにウリジンが供給されるとスイッチが入るという仕組みだ。このとき必要なウリジンも、RNaseT2により切断されたもう一方のオリゴヌクレオチドの端末から供給されるので、結局RNaseT2はTLR8の刺激に必要なすべてのリガンドを供給することになる。

以上がシナリオだが、RNAの生化学の高い能力と免疫学が合体して可能な、面白い研究で勉強したという気になった。このRNaseの遺伝変異によりウイルスに対する抵抗の欠如とともに、これと相反する自己免疫性炎症が発生するという面白い現象も存在するようで、私たちがアジュバントとして片付けていた現象が、本当に大きな世界へと広がっていることを感じさせる。

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