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新刊書

2013年8月16日

「ジェネンテック 遺伝子工学企業の先駆者」一灯舎 サリー・スミス・ヒューズ 著 千葉 啓恵 訳

   http://www.ittosha.co.jp/newtitle/isbn978-4-903532-95-0/

 

バイオベンチャーの先駆けであるジェネンテック社が1976年の設立直前から5年余りの創業時に同時並行的に直面した多面的闘争を、分り易く記した力作である。

 

事業化を左右するクローニングすべきタンパクの選択や菌体中での組み替えヒト遺伝子の発現可否など未知の技術的基本課題に加えて、無経験の知的財産、技術導入契約、会社設立など法律問題の解決、多彩な戦術や話術を駆使しての事業資金の調達、大学での研究活動と企業での事業化活動との並存の倫理的課題や教授としての利益相反の問題、出始めた遺伝子操作に関する社会倫理問題とアシロマ会議やNIHガイドラインへの対応、組み換えタンパクの臨床試験と製造承認、IPOに関わる問題など次々と生じる世界初の体験の無理難題を、創立者のスワンソン氏とボイヤー教授の実質二人で全て解決して同社をまず順調に船出させた。

現在ではヒト抗体の異種宿主での発現など技術面の解決のみならず、生物関連特許の範囲や有効性も確立されて、抗体の基本技術が研究段階で数百億円で海外に技術導出される程の安定・安心の技術分野になったのは、同社や競合他社との過激な争いと協議、各国の特許庁と各地の裁判所での過酷な審理、これらを契機に発効した各種国際条約等の賜物である。同社発足時の未知で混沌とした複雑な過程を当事者の話を交え、時系列的にまとめて、臨場感一杯十分に理解させられたのは著者の非凡な才能であろう。学術文献のみならず事件や話の根拠の引用例は750件に及び、検証の正確さと緻密さを窺い知れる。訳についても、技術用語に加え知財、法務、経営などの業界用語もよく練られており、難解な話題の連続とはいえスムースに読破できた。

 

同社の設立から2年遅れで参入した製薬企業で、研究所から転籍直後の特許部員としてこの戦場の矢面に立たされた。同社の10人足らずの研究員に対して、当初から10倍以上の発酵、ウイルス、抗体、蛋白精製など生化学、ペプチドと核酸化学分野の超一流の研究員を投入し、さらにサイトカインの研究では世界随一の京大医化学研究室との密接な関係を持ちながら(平成24年4月24日の中西重忠名誉教授の講話=先端医療振興財団Monthly Lecture=)、タンパク遺伝子のクローニング競争に次々と敗れたが、着手の遅れとは異なる本当の敗北理由を読後に悟れた。また、ロボットとコンピュータを多用する現在の巨大創薬研究手段による成果獲得へのヒントも本書に内在するように思う。   (田中邦大)