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I型糖尿病に対する新しい薬剤(アメリカアカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2014年1月12日

11月19日このコーナーで、小胞体ストレスを防ぐ薬剤が1型糖尿病モデルマウスに高い効果を示す事を紹介した。ただこの実験で利用された薬剤がヒトで使える様になるには時間がかかる。今日紹介するのは、既にヒトで利用が進む、しかも経口で服用できる薬剤が、同じI型糖尿病マウスに有効である事を示したコペンハーゲン大学を中心とする研究で「Lysine deacetylase inhibition prevents diabetes by chromatin-independent immunoregulation and beta cell protection (リジンのアセチル化阻害はクロマチンとは関係のないメカニズムにより免疫反応を変化させ、β細胞を守る事で糖尿病発症を抑制する)」がタイトルだ。この研究で使われた薬剤はgivinostatとvorinostatで、ともに染色体上のヒストン脱アセチル化を阻害してがんの増殖を抑制する目的で開発された。ただ、これら薬剤が阻害するのはヒストンだけではない。多くの蛋白質でアセチル化・脱アセチル化が起こっている。このため、薬剤の標的は脱アセチル化酵素に特異的でも、その下流で影響を受ける分子は多く、効果のメカニズムも複雑にならざるを得ない。従って、薬剤の標的はわかっていても効果や副作用については使いながら手探りするしかない。とは言え、マウス1型糖尿病モデルについてはこれら薬剤は「良いとこずくめ」であると言うのがこの研究の結果だ。まず、効果に必要な量はがん治療に使う量の1/100で副作用の心配は大きく減る。実際マウスに100日前後投与している。そして何よりも、膵島周囲の炎症がほぼ抑制され、糖尿病発生は著明に抑制される。患者さんに取ってはこれで十分かもしれないが、なぜ炎症が抑制できるのか、β細胞の元気が続くのか細胞レベルで調べている。免疫制御について明らかになって来たのは、調節性T細胞が活性化や抗炎症性サイトカインの分泌を促進して炎症を抑える事だ。この調節性T細胞は免疫調節の切り札と考えられている細胞で、現在阪大教授の坂口さんが発見した細胞だ。坂口さんはこの発見で、山中さんに次いで世界に知られる日本の医学者になっている。他にもヒトβ細胞の試験管内での細胞死を遅らせるなど、論文から見る限り悪い点が全くないようにさえ思える。もちろん炎症が進む前に早期診断をして治療を始めるなど、治験をどのように進めるか議論が必要だ。脱アセチル化酵素阻害剤は日本でも抗がん剤として開発されて来た。日本製の薬剤も含めて、是非真剣に治験について早期に検討を始めてもいい様な気がする。(これについては1月18日4時からのニコニコ動画で取り上げます。)


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