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4月28日 良い短鎖脂肪酸と悪い短鎖脂肪酸(Nature Genetics4月号掲載論文)

2019年4月28日

最近様々な媒体を使ったコマーシャルで、短鎖脂肪酸を作るXX菌をキャッチフレーズにしているのを耳にする。この背景には、腸内細菌のバランスを整えるとか、悪玉菌を追い出すとかといった宣伝を行ってきたものの、何百、何千種類もある細菌を本当にコントロールして、例えばヨーグルトの因果性をはっきりさせられるのかという反省がある。一方(私の研究室の大学院生だったということで、論文紹介を控えているが)、一つ一つの菌を地道に調べて、因果性のはっきりした素晴らしい研究を行なっている本田さんたちの論文を読むと、何が善玉で、何が悪玉かを決めるためには血の滲むような努力に裏付けられた最新のメカニズム研究が必要であることがわかる。もちろんまともな企業ならこんなことはわからないはずはなく、今度は因果性が大事だと思い直し、その結果糖尿病や肥満との因果性が明確な物質「短鎖脂肪酸」をキャッチフレーズにし始めたように思える。ただ、短鎖脂肪酸と一括りにすると、思わぬ落とし穴がある。

今日紹介する腸内細菌研究先進国と言えるオランダ・フロニンゲン大学からの論文は、短鎖脂肪酸でも糖尿を防ぐものと、促進する両方があることを示した論文でNature Genetics4月号に掲載された。タイトルはズバリ「Causal relationships among the gut microbiome, short-chain fatty acids and metabolic diseases(腸内細菌叢、短鎖脂肪酸、代謝病の間の因果関係)」だ。

この研究の目的は、膨大な細菌叢ゲノムデータから、特定の短鎖脂肪酸、そしてホストの代謝状態との因果性が明確な細菌を割り出そうとする研究と言える。基本的には、ビッグデータ処理研究だが、その結果明らかになったのは、

  • PWY-5022として知られるGABAを分解してブチル酸を作る経路とインシュリン感受性で、この経路に最も貢献している細菌としてEubacterium rectale, Bacteroides pectinophilus, Roseburia intestinalisと、あまりなじみのないバクテリアが並んでいる。中でもEubacteriumの貢献度は高く、その意味でこの指標については善玉菌と言えるのかもしれない。
  • 一方比較的測定が簡単な短鎖脂肪酸プロピオン酸と糖尿病を相関させると、プロピオン酸の合成が2型糖尿病の原因になること。

を明らかにしている。

要するに、短鎖脂肪酸といっても2種類あって、それぞれを作るバクテリアは違っているため、善玉、悪玉ということが言えることになるが、だとすると我が国の食品メーカーも、このレベルのデータを提供して、善玉だ、短鎖脂肪酸だと議論してほしいものだと思う。

しかも、プロピオン酸についてはもう一つ問題がある。腸内細菌叢でも作られるのだが、食品の保存剤として広く用いられている点だ。我が国の現状は把握していないが、この問題を警告する論文が先週号のScience Translational Medicineに掲載された(Tiroshet al, Science Translational Medicine 11:eaav0120(2019))ので短く紹介しておく。

なぜプロピオン酸が危険かというメカニズムを調べた論文で、最終的に人間でもテストを行った研究だ。まとめてしまうと、プロピオン酸は自律神経を介して、グルカゴンやFABP4の分泌を高め、その結果肝臓でのグルコース合成を高め、高血糖を誘導するという結果だ。この2型糖尿病を誘導する効果は、米国で通常食品保存に用いられる量でインシュリン抵抗性が高まり、逆に食事制限によるダイエットについてのコホート研究の参加者について、血中プロピオン酸とインシュリン抵抗性を調べると、プロピオン酸が低下によりインシュリン反応性が高まり、代謝が改善することを示している。

我が国の現状は知らないが、短鎖脂肪酸を食品メーカーが宣伝のキャッチコピーに使うなら、ぜひプロピオン酸の問題も指摘して、消費者が悪い短鎖脂肪酸を避け、良い短鎖脂肪酸を利用できるようにしてほしいものだ。


  1. Okazaki Yoshihisa より:

    プロピオン酸:
    腸内細菌叢でも作られる。
    食品の保存剤としても使用されている。
    プロピオン酸の合成が2型糖尿病の原因になる。

    Imp:食品保存剤にこのような副作用があるとは。。。

  2. 本田賢也 より:

    大変ご無沙汰致しております。慶應の本田賢也です。
    西川伸一先生のこのサイトは、Webのトップページに設定して毎日必ず拝見しており、いまだに先生から勉強させて頂いています。この毎日の活動にただただ頭の下がるばかりですが、一方で、われわれPIがすべきことは、こうした日々の努力・鍛錬・情報収集ではないかと思い、背筋が伸びる思いです。

    先生の仰るとおり現在の腸内細菌研究は「相関」解析から「Causality」解析へとシフトしてきています。本論文でもそれぞれの腸内細菌種の役割は文脈によって異なっており、プロピオン酸生菌は炎症を抑制するという観点では良いかもしれませんが、代謝疾患・糖尿病という観点では良くないかもしれないという事が示されたのだと思います。本論文のような迫力ある仕事は、日本ではなかなか出来ていないです。

    私たちの腸内細菌の仕事にも触れて頂き、有り難うございます。これからも頑張ります。

    1. nishikawa より:

      直々のコメントありがとうございます。本田研からの最新のNature論文に感銘を受けたので、ちょっと禁を犯して書いてしまいました。紹介はしていませんが、論文はいつも楽しんで読んでいます。これも全て老後のボケ防止です。期待しています。

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