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1月22日:言葉の知覚と発語は左右の脳で同時に起こる(Natureオンライン版掲載論文)

2014年1月22日
真実なら画期的な仕事だ。常識は覆るためにある。  医学生の頃臨床実習で経験した失語症の症例は忘れられない。失語のほとんどは卒中や腫瘍などの脳障害により起こる症状で、言語の様な複雑な過程でも障害される部位と症状が教科書通り一致して感銘を受ける。特に言葉を聞いて理解する事が出来ないウェルニッケ型の感覚性失語と、言葉を話そうとすると障害が現れるブロカ型運動性失語に症状が分かれる様を見ると、言葉の知覚から発語に至る高次機能を脳が確かに担っていると言う実感を得る。ただ、失語の症例は全て片方(左側)に器質的障害を持っており、言語中枢は左脳にあるというのが定説で、私もそう理解していた。しかし最近になって、言語の知覚は両側で行われると定説が変わりつつあったらしい。この論文は更に進んでこれまでの定説を完全に覆し、知覚過程も、発語過程も両側で同時に起こる事を示した研究で、ニューヨーク大学のグループがNatureのon line版に発表した。タイトルは「Sensory-motor transformations for speech occur bilaterally (言語過程での感覚—運動変換は両側で起こる)」だ。しかし、これだけの事がどうして今までわからなかったのだろう?この秘密は脳の活動を記録する方法にありそうだ。この研究では、脳の活動を様々な部位の脳皮質に直接電極を挿入する頭蓋内脳波計を用いて記録している。残酷な人体実験と思われるかもしれないが、この方法は癲癇のおこる脳部位を特定してその部位を取り除くために我が国でも行われている検査法だ。この方法を使うと、正確にしかもリアルタイムに脳の活動を記録できる。発語過程の様な筋肉運動を伴う検査では、顔の筋肉の活動に影響されず脳神経活動を調べる事が出来る。この研究では、この検査を受けている癲癇患者さんの許可を得て、言葉を聞いて、それに反応して言葉を発する過程でどの脳の場所が活動するかについて時間を追って記録している。結果は明白だ。言葉を聞いて、内容を把握し、適切な言葉を発する過程で右脳も左脳も同時に活動している。言語に関する新しい説が誕生した。私たち素人にはこれで十分だろうが、専門家を納得させるにはこの何倍もの実験が必要だ。言葉に反応して発語する代わりに、黙って頭の中で言葉を発してみたり、意味のない音を聞いてそれを繰り返したり、様々なコントロール実験を行い、他の解釈を除外している。除外実験に使った課題を読むだけで想像力にあふれている研究だと実感する。このコントロール実験を全てクリアして、この結論に達しているが、まだ卒中などの患者さんで蓄積された経験(右脳の障害では失語にならない)との違いも考える必要がある。これについては、更に高次の脳機能が関わる時、左脳の優位性が出るのではと考えているようだ。失語の病態についても今回の研究結果を受けて考え直す必要があるようだ。この論文を読んでいると、私の様な素人でもこんな事が出来るのではと想像力がかき立てられ、高次機能の理解に頭蓋内で脳波を記録する方法の果たす役割が大きい事を実感する。患者さんの了解さええられれば、言語など、人間にしかない機能の研究が進むだろうと感じた。

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