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神経性食思不振症治療法の治験(1月11日the Lancet掲載論文)

2014年1月23日
私事になるが、熊本大学から京大に移った時最初に秘書として雇ったMさんは、面接のときから重症の神経性食思不振症である事がわかる女性だった。普通は採用を敬遠するのだろうが、他の候補と比べて英語がはるかに堪能であり、私自身も医師の経験があるので何とかなるだろうと雇う事にした。実際期待通り、仕事については申し分なく、持てる能力を発揮してよく補佐をしていただいた。しかし、病気の方は一向に良くならず、結局体力が持たず退職された。その後入退院を繰り返されたあと、亡くなられた事を聞き、私の生半可の医学経験がこの病気には全く役に立たない事を思い知らされた。今日紹介する論文はドイツの研究で、この病気に対して3種類の治療方法を選び、それぞれの効果をBMI(体格指数)の増加を指標として1年間追跡した医療統計学に乗っ取った治験研究で、1月11日付けのThe Lancet紙に掲載された。「Focal psychodynamic therapy, cognitive behaviour therapy, and optimized treatment as usual in outpatients with anorexia nervosa (ANTOP study):randomized controlled trial (神経性食思不振症外来患者に対する3種類の治療法:局所精神分析治療、認知的行動治療、通常の至適治療の比較(ANTOP研究):無作為化比較研究)」がタイトルだ。専門的だがそれぞれの治療法を簡単に紹介しよう。まず全ての患者さんはかかりつけ医に月一回診てもらうようにしてある。また、かかりつけ医はこの治験に参加する際の決まり事についてマニュアルを貰いしっかり習得する。その上で、1)一定の方向性で行われる専門医による精神分析により患者さんの精神状態を改善させようとする治療、2)Fairburnさんの考えに基づくマニュアルを使った認知行動療法。この治療のために、セラピストはこのマニュアルに習熟した上で、低体重の問題や規則正しい食事の重要性を指導する、そして3)患者さんに心理療法士を紹介し、普通の治療を受けてもらうが、状態はかかりつけ医がきちっと追跡する、の3グループに分け追跡が行われている。さて結果だが、グラフの平均値は精神分析療法を受けた方が回復が進んでいるように見えるが、統計的には3グループで大きな差はないと言うのが結論だ。実際、最初16.5ぐらいしかなかったBMIが18近くにまで回復しており、素人から見ると今回選ばれた患者さん達についてみれば治療はうまく行っているようだ。    論文を読むとこの病気についてこれだけの規模の治験が行われた事は初めてらしいが、どの治療法が優れているかが決まらなかった事は残念だ。しかし論文からドイツではこの病気に対して心理療法士まで全てカバーする医療保険体制が整っていることがわかる。また、マニュアルに従ってこの患者さんをしっかり管理してくれるかかりつけ医が見つかるのも素晴らしい。今回治療法の間で差がなかったと言う結果は、ひょっとしたらこの様な心の病気に対するドイツの医療システムの水準の高さを示しているのかもしれない。事実、かかりつけ医さんが治験の重要な一端を担えるというのも優れた医療システムを反映している。いずれにせよ、マニュアル通り患者さんを診てくれるいいかかりつけ医がいる事がこの病気にとって最も重要な事だと実感した。

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