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7月14日:阿吽の呼吸がどう生まれるか(7月11日号Cell掲載論文)

2019年7月14日

狼がバッファローを襲う時の統制のとれた動きを見ると、私たちは司令官の指示による統制がうまく働いていると思うが、実際には各個体の個別の決断の積み重ねがあたかも指示によって動いているように見えるだけだ(これについてはJT生命誌研究館のブログに「コミュニケーションと言語」というタイトルでまとめてあるので参照してほしい。(www.brh.co.jp/communication/shinka/2017/post_000022.html)。従って、重要なのは各個体レベルでの決断が、他の個体の決断と一定の連関を持たないとうまくいかない点だ。すなわち、他の個体の動きを見、次のアクションを予測し、自分の行動につなげることが必要になる。

今日紹介するUCLAからの論文は個体同士の相互作用の時に生まれる脳内での連関を調べた研究で、私たちが阿吽の呼吸と呼んでいるような行動のルーツに関わる研究で、7月11日号のCellに掲載された。タイルは「Correlated Neural Activity and Encoding of Behavior across Brains of Socially Interacting Animals (社会的に相互作用をしている2個体の行動と相関しコードする神経活動)」。

この研究では、様々な状況で互いに反応し会っている2匹のマウスの背内側前頭前野に存在する多数の神経細胞の活動をカルシウムイメージングで同時に記録し、個々の神経の反応と、ビデオで撮影した行動との相関を数理的に調べることが方法の全てだ。ただ、一匹のマウスの脳の反応を調べる実験とは異なり、神経細胞の活動と相関させる社会活動のパラメーターは、行動の種類、自分の行動、相手の行動、などなど極めて複雑になる。そして、相関がみつかると、モデル化して実際に神経活動から、二匹の個体の行動をそれぞれ予測できるか確かめる事で初めて、意味のある相関であることを結論できる。

この操作を、2個体が競争し会って最終的に優劣がつく状態で、勝った方の神経活動と、負けた方の神経活動を調べ、脳内に2個体の関係がどう表象されるのかを見ている。詳細は省いて面白かった点だけを箇条書きにしておく。

  • ネズミが競争する時、押す時、引く時などそれぞれの行動に対応する神経細胞が存在する。押し切る方が勝負に勝つことを意味しており、押す時の興奮の方が引く時の興奮より強い。
  • 各個体の脳は社会行動中は確実に同期している。しかも、押す時に反応する神経興奮は、相手側では引く時の神経興奮と連動している。すなわち押し合っているときは連動せず、勝負が決まる時に連動する。ともに勝負の結末を認めるといった感じ。
  • 行動に直接関わる神経活動とともに、相手についての情報をコードする神経活動が行動の決断に関わっている。すなわち相手型の行動を読み取って決断に活かすプロセスに関わる神経細胞だ。このような神経細胞は、競争している時ではなく、それぞれ別々に行動している時に反応が見られる。競争していなくても、相手の行動を見ている。
  • この相手の行動をコードする神経細胞は、個体間の優劣にあわせた神経興奮の連動を調整する。わかりやすくいうと、強い方の神経興奮はあまり相手の行動に影響されないが、弱い方の神経活動は強い方の行動により影響される。すなわち、相手の行動をコードする神経細胞の寄与度が大きい。

パラメーターが多すぎて、本当にどこまで正しいのか素人には判断が難しいが、勝負を繰り返すうちに、相手の表象が脳内に形成され、最終的に勝ち組、負け組に固定されていく様子がわかる気がする。結論としては、阿吽の呼吸での協力というより、個人間で優劣を自然に納得する過程の研究といえる。


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