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7月27日:皮膚の感覚神経による炎症誘導(8月8日号 Cell 掲載論文)

2019年7月27日
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炎症が起こると、発赤、浮腫、痛み、熱が局所に必ず起こることは、古くから知られた事実だが、この疼痛には炎症部位で分泌された神経作動性ペプチドや熱そのものに反応した痛みを感じる感覚神経端末が関わることが知られている。しかし、あくまでも反応の主体は、炎症刺激物質に対する組織反応で、神経の反応は従と考えられてきた。

ところが今日紹介するピッツバーグ大学からの論文は、純粋な神経刺激により特殊なタイプの炎症反応が局所に誘導できることを示した研究で8月8日号のCellに掲載された。タイトルは「Cutaneous TRPV1 + Neurons Trigger Protective Innate Type 17 Anticipatory Immunity (皮膚のTRPV1神経はIL-17型防御型自然免疫を予防的に誘導する)」だ。

TRPV1神経はカプサイシンに反応して痛みを伝達する神経の主役だが、我々は痛み刺激が続くだけで炎症が起こっても良さそうだと直感的に感じていないだろうか?この疑問に答えるため、この研究ではTRPV1神経に光感受性のチャンネルロドプシンを導入して、その皮膚にレーザーで光をあて炎症が起こるかどうか調べた。

実際には光で痛みも誘導するので、痛みを感じた全身の影響なども除外していく必要があるが、結論は予想通り、光をあてた局所だけで局所の炎症刺激物質が誘導され、IL-17A分泌を核とする炎症が誘導されることを発見している。この、神経刺激だけで炎症が起こるというのがこの研究のハイライトで、あとはそのメカニズムを解明している。

メカニズムをまとめると次のようになる。

  • TRPV1陽性神経の興奮は、端末でのカルシトニン関連ペプチド(CGRPα)の分泌を促す。
  • CGRPαはシナプスと同じで小胞に蓄えられ細胞外に分泌され、近くのIL17A分泌T細胞を刺激する。
  • これにより局所の炎症が誘導される。同じ神経は分枝の興奮も誘導する結果、炎症が光をあてた局所を中心の小さなエリアに広がる。
  • 神経刺激のみで、皮膚真菌に対する免疫が成立する。
  • この神経は局所の真菌感染でも興奮し、周りの炎症を誘導することで、真菌に対する予防的防御反応を起こすことができる。

ある意味で、なぜこのような研究がもっと早く行われなかったのか、不思議に思うほど明確なデータで、痛いという刺激だけで炎症が起こってしまうことがよくわかった。とはいえ、神経が細菌を感じているなど、驚いてしまう。このタイプの神経は他の場所にも存在すると思うので、同じシナリオが消化器などにも当てはまるのか、研究が進むと予想できる。

  1. okazaki yoshihisa より:

    神経刺激により特殊なタイプの炎症反応が局所に誘導できる

    東洋医学的かおりを感じる研究で西洋思想主流の世界ではなかなかスポットライトが当たらないのかも?(鍼灸)
    今年の癌学会では『神経制御によるガン治療』のセッションがあるみたい。
    今日のaasjジャーナルでの硬膜外刺激によるリハビリをはじめサイバネティクス再評価の時代なおかもしれません。

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