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1月29日慢性リンパ性白血病の抗体治療(1月26日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2014年1月29日
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ホームページでは出来るだけ治療法に関する大規模治験の論文を紹介したいと思っている。今日もその一つだ。高齢者に多い腫瘍の中には白血病がある。中でも骨髄異形成症候群(MDS)と慢性リンパ性白血病(CLL)は頻度が高く、ゆっくりとした経過をとるとはいえ根治が困難だ。この状況を打開しようと新しい薬剤の開発が続けられており、今日紹介するのは、CLL治療に使える新しい抗体薬の効果を確かめる臨床治験の結果を報告したドイツからの論文で、1月26日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。「Obinutuzumab plus chlorambucil in patients with CLL and coexisting condition (CLLとそれに併発する条件を持つ患者に対するObinutuzumab+chlorambucilの併用の効果)」がタイトルだ。研究では781人の患者さんが無作為的に3群に分けられ、これまでCLLに用いられるアルキル化剤(DNAを断裂させる)単独、あるいは抗CD20抗体との併用で治療を受ける。抗CD20抗体はrituximabと呼ばれ、既にCLLに高い効果を示す抗体薬として利用が進んでいる。今回の研究は抗体薬の効果を確かめる事が目的ではなく、この抗体に特別な糖鎖を加えて効果を高めた抗体薬Obinutuzumabとrituximabを比較するのが目的だ。治療効果の判定は、細胞や遺伝子検査で検出される白血病細胞が消失している期間を調べている。まず、両方の抗体とも、chlorambucil単独と比べると、白血病細胞なしで過ごせる期間は格段に伸びる。実際、治療終了後すぐに行われた検査でも、治療効果の高さははっきりしている。更に、新しい改変抗体を使うと、完全に白血病細胞が消える率がrituximab併用に比べて2.5倍以上になり、改変によって確かに効果が上がっている事が確認されたと言う陽性の結果だ。この研究では約3年後までしか追跡が行われていないので、更に長期の追跡を行う必要がある。それでもこの期間内で白血病細胞が消失した患者の割合が高い事から、長期に追跡すれば更に良い結果になるのではと期待が述べられている。製薬会社から見れば、そろそろ特許が切れそうなrituximabより効果の高い新しい抗体を開発できた事は将来のセールスを約束してくれるうれしい結果だ。もちろん、患者にとっても朗報だが、治療にどの程度のコストがかかるのか、いつ健康保険でカバーされるのかなど問題はある。また、血液細胞の減少や感染、注射に対する過敏反応は効果の最も高いobinutuzumabの方に高い頻度で見られたのも問題だ。ただ、副作用による死亡例はobinuzumabの場合が最も低く、全般的には対処可能な範囲で収まりそうだ。今回対象になった患者さんの平均年齢は72−74歳だった事からもわかるように、CLLは高齢者の病気だ。あと5年もすれば私も危険年齢に達するが、この様な結果を見ると励まされる。

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