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9月3日 アデノシン受容体と骨粗しょう症(8月21日号 Science Advances 掲載論文)

2019年9月3日
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酵素というと細胞内に存在するタンパク質を思い浮かべるが、細胞膜上で機能する生体膜酵素も存在しているが、その機能の解析はまだまだ進んでいない。この2週間に面白いと思った生体膜酵素の論文を2報目にしたので、今日から紹介することにする。1日目の今日はデューク大学から8月21日号のScience Advancesに発表された骨粗しょう症に関わるectonucleotidaseの研究を紹介する。タイトルは「Dysregulation of ectonucleotidase-mediated extracellular adenosine during postmenopausal bone loss (閉経後の骨粗しょう症で見られるectonucleotidaseによりできる細胞外アデノシンの調節異常)」だ。

このectonucleotidaseとは、細胞膜上で細胞内から出てきたATPをアデノシンへと分解する酵素システムで、細胞膜タンパク質なのでCD39とCD73という命名がされている。

この研究では卵巣を摘出したマウスを用いた閉経モデルでCD39,CD73の発現を調べ、卵巣摘出で骨髄でのCD39/73の発現が、血液細胞を含む様々な細胞系列で低下していることを発見する。一方、エストロジェンを加える実験で、骨芽細胞系、破骨細胞系ではエストロジェンで最後のアデノシンへの分解を媒介するCD73が低下、その結果としてアデノシン濃度が低下することを発見するる。すなわち、エストロジェンによって合成の上昇した細胞外アデノシンが、閉経後の骨形成に関わる可能性が示唆された。

そこで、アデノシン受容体A2BRを骨芽細胞や破骨細胞前駆細胞でノックダウンすると、骨芽細胞の活性が低下、逆に破骨細胞形成が低下するので、アデノシンは骨形成を高め、骨の分解を抑えることがわかった。

この結果は、閉経後もアデノシンからのシグナルを維持できれば、エストロジェンがなくても骨形成を維持できることを示唆しており、これを確かめる目的でA2BR受容体を刺激する薬剤を卵巣摘出マウスに投与すると、全体の骨の体積や、骨梁の数の低下が抑えられることを示している。

例えば、エストロジェンでCD73は低下するが、CD39はどうして上昇するのか、その結果確かにアデノシンは低下するが、AMPの合成は上がるのではと考えられるが、その影響はなど、まだまだ調べることは多いと思うが、少なくとも私が知っている骨形成や破骨細胞活性化とは全く異なる機構のシステムなので、今後閉経後の骨粗しょう症だけでなく、ほかの骨形成異常にも利用価値が出てくるのではと期待される。

もちろん更年期障害にはホルモン療法が高い効果を示す。しかし、先週発表されたThe Lancetの論文では、ホルモン療法を受けると間違いなく乳がんの発症リスクが上がることが証明されている。その意味でも、この経路は重要だとおもう。

  1. okazaki yoshihisa より:

    国内ガイドラインでは女性ホルモン製剤(結合型エストロゲン)、ビスホスホネート製剤SERM、PTH製剤などが治療薬として強く推奨されていると思います。RANKL阻害剤なども現場では目にします。今回、創薬ターゲットの新しい経路が発見された可能性があるとのこと。乳がんのリスクを回避しながらの管理が可能性になるとよいです。

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