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3月3日 日経記事、白血球など作る遺伝子を発見 京大 白血病・がん治療へ道(Natureオンライン版掲載)

2014年3月3日
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幹細胞研究にとって、幹細胞を支える環境側の細胞(ニッチと言う)は最も重要な課題だが、どの幹細胞系でも研究の進展は遅い。そのため少し頭のいい人が気のきいたアイデアを出すと、多くの研究者がそこに流れる流行が生まれてしまう。しかし、本当に科学的な厳しさがないと流行は流行で終わりいい雑誌に論文は出るだろうが、ほとんど残らない。そんな中で、時間をじっくりかけて独自の証拠を積み重ねて研究を進めるプロの仕事は重要だ。骨髄で血液産生を支えるニッチ細胞についても状況は同じで、私から見て結局は概念先行で長続きしないなと思える仕事が本当に多い。そんな中、今日、日経が紹介した京大再生研の長沢さんはニッチ研究を支える数少ないプロだ。私事になるが、私は長沢さんが阪大の大学院のときから知っている。岸本忠三先生のラボで大学院を始めた長沢さんは、岸本研のメインの仕事ではなく、岸本先生を説得して造血幹細胞のニッチ機能に関わる分子を研究する許可を得た。この研究材料として、当時私たちが樹立していた造血を支持する細胞株に白羽の矢をたてリクエストして来たのを覚えている。人一倍のがんばりで、現在CXCL12として知られるケモカインを発見し、その後も他の問題には見向きもせず、大学院時代に掲げた目標、造血幹細胞ニッチを明らかにするために研究を続けている。一段一段研究を進め(その間多くの論文をコンスタントに発表している)、そして生まれたのが今日紹介する研究でNatureのオンライン版に掲載された。タイトルは、「Foxc1 is a critical regulator of hematopoietic stem/progenitor cell niche formation」(Foxc1は造血幹細胞・前駆細胞のニッチ形成に必須の調節分子)だ。長沢さんは大学院時代に発見したCXCL12が造血細胞のニッチ細胞に特異的な分子である事を多くの証拠を重ねて示して来た。この仕事ではCXCL12を発現している彼がCAR細胞と読んでいるニッチ細胞と、それ以外の脂肪細胞や骨になる骨芽細胞の遺伝子を比べ、Foxc1遺伝子がCAR細胞に強く出ている事を発見し、この分子が造血幹細胞のニッチ形成に関わるかどうかを検討した。期待通り、この遺伝子の機能をCAR細胞を含む間質細胞で発現できなくすると、造血が低下し、幹細胞だけでなく様々な前駆細胞の産生が押さえられる。一方、造血を支持する細胞にこの分子を発現させると、CXCL12やSCFなど幹細胞の増殖に関わる分子の発現が亢進すると言う結果だ。またマウスの遺伝子操作を駆使して、Foxc1が間質細胞の脂肪細胞への分化を抑制する事で、CAR細胞へ誘導する事も明らかにした。もちろんこの分子が完全に無くなっても、かなりの数の造血幹細胞がまだ骨髄には残っているようだ。従って、ニッチの全貌が明らかになるにはまだまだ時間がかかりそうだが、造血細胞ニッチに関する研究の中では、最もオーソドックスで重要な研究だと思う。今回の結果を見た気のきいた研究者達も、今後は間違いなくFoxc1を念頭において仕事をするだろう。ようやく骨髄の造血細胞ニッチも全貌が明らかになるのではと言う確かな感触を得る事が出来た。更に、論文に書かれているように白血病や再生不良性貧血を理解する重要な手がかりになる事は間違いない。素晴らしい仕事だ。さて報道だが、この仕事が血液自体ではなく、それを支持するニッチ細胞に関する研究である事が全く表現されていない。やはり、ある程度内容を理解してポイントを紹介できる能力が記者にも求められていると思う。

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