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3月18日:全ゲノム配列決定を臨床で使うにはまだ準備が整っていない。(3月12日発行JAMA紙掲載論文)

2014年3月18日
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このページでがんと戦うためにタンパク質に翻訳される遺伝子部分全て(エクソームと呼ぶ)の配列決定をする重要性について紹介して来た。がんだけでなく、臨床医学の様々な領域でエクソーム解析は標準になりつつある。しかしエクソームは私たちの持つ全遺伝子のほんの1%強にすぎない。では残りの99%も含めて全ゲノム遺伝子配列を決定する事はまだまだ時間がかかるのだろうか?実を言うと配列を読むだけなら10万円近くまでコストが下がって来ている。私にでも奮発すれば出せる額だ。更に、IBMとロッシュはこれを100ドル(約1万円)にまで下げる技術開発を進めている。とすると、手軽に全ゲノム配列を決めてもらう時代はすぐそこに来ている。しかし臨床現場に全ゲノム解析を導入するにはまだ準備が整っていないのではと疑問を投げかけたのが今日紹介するスタンフォード大学の研究で、3月12日発行のアメリカ医学会雑誌(JAMA)に掲載された。タイトルは「Clinical interpretation and implication of whole-genome sequencing(全ゲノム配列解析の臨床的解釈と意味)」だ。   研究では12人のボランティアーを選び、2種類のシークエンサーとソフトを使って全ゲノム解析を普通行われるより更に念入りに行う。その上で、現在利用できるソフトでどの程度正確に遺伝子異常を見つける事が出来るかを調べている。残念ながら自動的に異常を見つける事は現段階では簡単でなく、1割から2割の疾患遺伝子が最初から読めていない。さらに、病気などに重要だと思われる遺伝子断片の挿入や削除の診断率は低く、それぞれの人のゲノムの違いが現在知られている病気と相関するかどうかを決めるためにはまだまだ多くの人手がかかり、結局一人のゲノムの解析に100−200万円近いコストがかかると言う結果だ。要するに臨床に導入して患者さんにしっかり内容を説明できるのは困難であり、配列決定のコストが低下しても解釈のために必要なコストは変化せず、当分安くならないと結論している。この論文の他にも情報科学の雑誌に、250人の全ゲノム解析を比べるためには市販のスーパーコンピュータを駆使して50時間かかると言う結果も報告されている。   さてこの結果をポジティブに取るか、ネガティブに取るかで対応が大きく違う。ポジティブに捉える場合は、情報処理人材やコンピューターソフトの開発が遅れているため、この分野の人材を育成し、結果を問わず試行錯誤が必要だと言う事になる。一方、ネガティブに取ると、まだ全ゲノム配列を行っても意味がないので、その時が来るのを待とうと言う事になる。私は前者を取りたい。何故なら専門家のわたしも2004年アメリカで1000ドルゲノム計画が始まるまで、私自身の全ゲノムを自分がお金を払えば解読できるようになるなどと夢にも思わなかった。しかしそれが今可能になっている。37億年に一回きりのゲノムが少なくとも情報として残せる。これまで出来なかったなら、是非読んでおこうと考えるだけで十分だ。役に立つを超える視点が21世紀の科学、医学、そして文化を創ると思っている。

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