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3月25日:悪性膠芽細胞腫治療薬の開発(4月10日号Cell誌掲載予定論文)

2014年3月25日
新しいメカニズムに基づく抗がん剤開発の報を耳にするのはうれしい。従来方法の改良とは違って、治療が根本的に変わる可能性があるからだ。その典型を慢性骨髄性白血病の治療法に見る事が出来る。私が約40年前医者を始めたとき、慢性骨髄性白血病は経過は長いが治療法のない病気だった。その後骨髄移植が始まると根治可能になったが、骨髄移植は今でも専門医の集中的な努力の上に成り立つ治療法だ。しかしこの白血病の原因遺伝子に対する標的治療薬により、治療法は薬剤を服用するだけでよくなる。あらゆるがん治療が同じ様な歴史をたどって根治に至る事が私たち共通の夢だ。この夢のもと様々な薬剤が開発され、今では多くのがんを根治できないとはいえ、コントロールできるようになっている。しかし取りつく島もないがんが今も存在する。その代表が悪性の膠芽細胞腫だ。これまで放射線療法、細胞死誘導剤、オートファジー阻害剤など治療法が試されて来たが、効果は大きくなかった。今日紹介する論文は、この厄介な相手に正攻法で挑んだ研究でスウェーデン・カロリンスカ研究所から4月10日号のCell誌に掲載される予定だ。タイトルは「Vulnerability of glioblastoma cells to catastrophic vacuolization and death induced by small molecules (膠芽細胞腫は化学薬剤により破滅的な空胞変性を起こし細胞死に至りやすい)」だ。 研究は極めてオーソドックスで、人の膠芽細胞腫細胞株には細胞毒性を示すが、正常細胞株には影響のない化学物質を1200程度のライブラリーの中から探し出している。次に、この化学物質の作用機序を調べ、膠芽細胞腫細胞株に破滅的空胞形成を誘導する結果、細胞が死ぬ事を突き止めている。この細胞死のメカニズムはアポトーシスでもオートファジーでもなく全く新しいメカニズムだ。最終的な経路はまだ不明だが、この薬剤はMAPKK4(マップ4K)を介するシグナル経路を使って細胞膜と細胞骨格の繋がりを不安定にし、調節の利かない空胞形成が誘導する。この作用がが死のメカニズムだ。この作用に基づいてこの化学物質はVacquinol-1(Vacuは空胞)と名付けられている。この分子はゼブラフィッシュやマウスに投与しても大きな副作用はなさそうだ。今の所、膠芽細胞腫特的と言える。マウス脳内にヒト膠芽細胞腫細胞株を移植し治療実験も行い、かなりの効果も確認されている。即ち、薬剤は脳内にも分布し、膠芽細胞腫特異的効果を示すと言う結果だ。この地点から実際の臨床応用までまだ時間はかかるだろう。しかし勇気づけられる結果だ。この20年分子生物学に基づく効率のいい創薬が続けられている時代に、今日紹介する研究のような古典的創薬方法がまだまだ有効である事は肝に銘じるべきかもしれない。

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