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4月13日:人間の抗体を作るマウス(4月8日号アメリカアカデミー紀要掲載論文)

2014年4月13日
レミケード、リツキサン、我が国発のアクテムラと抗体薬の比重はますます高まっている。事実現在200を超える抗体薬が開発途上にあり、我が国の製薬も抗体薬を重点分野として大きな投資を行っている。通常抗体薬は、先ず標的分子を免疫したマウスから、その分子に特異的に結合する抗体だけを大量に作るハイブリドーマと呼ばれる細胞を樹立する事から始まる。標的分子と結合する点ではこのハイブリドーマが作る抗体で十分なのだが、このままではマウスの抗体なので、ヒトに注射すると異物として認識され、抗体活性が抑制されアレルギー反応を起こす。そのため、遺伝子工学を使って抗体の標的と結合する部分以外をほとんど人の抗体と置き換える。この時、どこまでヒトの遺伝子を置き換れば活性が維持できるか試行錯誤が必要だ。この過程をスキップするため、マウスの抗体遺伝子をヒト遺伝子で置き換え、最初からヒトの抗体を作れるマウスを作成しようという試みが世界中で行われた。この競争での我が国企業の存在はかなり大きかったように覚えている。おそらく世界にさきがけて、全ての抗体遺伝子がヒトで置き換わったマウスを作ったはずだ。ただ残念ながら、このマウスは抗体をうまく作る事が出来なかった。抗体反応の主役B細胞の機能が低下していたからだ。これを解決したのが今日紹介する論文で、アメリカのリジェネロンという製薬ベンチャーの研究で、4月8日付けのアメリカアカデミー紀要に掲載された。タイトルは、「Mice with megabase humanization of their immunoglobulin genes generate antibodies as efficiently as normal mice (普通のマウスと同じ効率で抗体を作る事の出来るヒト抗体遺伝子を持つマウス)」だ。この研究が行った工夫は簡単だ。これまでのヒト化マウスは全ての抗体遺伝子をマウスからヒトに置き換えている。一方、今回報告されたマウスは、抗原と結合する可変領域(V領域)遺伝子だけを交換している。抗体はC領域とV領域からで来ており、抗原に結合するのはV領域だ。しかしC領域は抗体の持つ様々な生物活性を担っている。この生物活性の中には、B細胞の分化や生存に関わる機能が含まれている。正常機能を発揮するためには、C領域と細胞内分子との相互作用が必要だが、もしマウス内のC領域がマウスB細胞内のシグナル分子とうまく結合できないとB細胞の分化や生存が阻害される。今回報告されたマウスではC領域遺伝子を残しておく事で、この問題を解決できた。もちろんこのC領域は最後にヒト遺伝子に置き換える必要があるが、これは簡単な事だ。この競争では、誰もが全ての遺伝子をヒトに置き換える技術競争と考えて、それに邁進した。幸いこの競争では我が国がリードした。しかし、ヒトの分子が全てマウスの細胞内で同じように働くと言うのは甘い期待だった。この当たり前の知識を思い起こし、単純な小さな工夫で最後まで粘ったリジェネロンが最終勝利を手にする事になった。もちろん理屈がわかると、我が国で作られたマウスを復活させる方法は私でも思いつく。是非あきらめずチャレンジを続けて欲しい。事実リジェネロンはこのマウスから作った抗体を既に10種類治験へと進めていると言う。抗体薬開発を掲げて柳の下のどじょうを狙うのではなく、独自の技術や材料を開拓する事しか勝利の処方箋はない。

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