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4月14日:治験データの開示(4月11日朝日新聞記事)

2014年4月14日
報道ウォッチと称して新聞報道と実際の論文を比較して来た。科学報道の問題を整理し、新しいあり方を提言したいと続けて来たが、大体初期の目的を果たしたので、報道ウォッチ自体は中止して、科学の話題や患者さんへの情報中心にこのコーナーをリニューアルしようと計画している。これまで調べて来た結果は「科学報道を問う」と言う本にまとめる予定だ。折しも私も個人的に関わった小保方問題が勃発した。これまで書こうと考えていた問題が一挙に噴出し現れてたと思っている。手持ちの資料でしっかり分析して、この本で取り上げるつもりだ。期待して欲しい。   さて今日は少し古くなったが先週金曜日の朝日新聞に掲載された大変重要な記事を取り上げたい。記事は「抗インフル薬タミフル「効果は限定的」英医学誌など」が見出しで、ロッシュ社の抗インフルエンザ薬タミフルが、症状改善には効果があるが、重症化予防に効くと言うデータがない事を伝えている。British Medical Journalにオックスフォード大学のグループが発表した「Oseltamivir for influenza in adults and children:systematic review of clinical study reports and summary of regulatory comments (大人と小児に対するタミフルの効果:臨床研究報告の再調査と規制についてのコメント)」論文について伝えている。論文の内容は朝日新聞に書かれた通りだ。しかし実際は、この記事にはほとんど触れられていない製薬業界とコクラングループとそれを支持する研究者との間で熾烈なバトルがあった。その結果が今回の論文だ。実際紹介されている論文のintroductionでロッシュに対して治験の生データを公開する様要求を続けた結果ようやく生データが公開された事についても書いている。今回の論文はこの生データも含めた再調査の結果だ。我が国には約5000万人分の備蓄があることからわかるように、学会やWHOの提言を行政当局がまじめに遂行した事で、ロッシュは巨額の利益を得ている。しかし取り寄せた1300ページにも及ぶ生データを仔細に検討すると、効果、特に予防効果が水増しされ、副作用は低めに見積もられている事がわかったと言う事だ。一種の改ざんが行われ、学会、WHO、行政すべてがそれを見抜けなかった事になる(コクラングループはしかし問題を早くから指摘していた)。この反省から、同じ様な間違いが繰り返されない様システムを確立する事こそがこの研究の本当の目的だ。従って、記事ではこの問題を取り上げ果敢に戦ったコクラングループについての説明もほしかった。このグループは、患者団体も含む医療従事者のために、証拠に基づいたデータを提供する事を目的に活動している世界規模の団体だ。また、British Medical Journalも今回の戦いを学界代表として後押ししている。私たちが薬剤に対する情報を得るのはもっぱら論文を通してだ。製薬会社の生データは規制当局とのやり取りに用いられても、公表される事はなかった。コクラングループが追求したのは、結果が改ざんされ間違って解釈されていた点だけではなく、許可に至るまでに行った治験の完全な生データは公開されるべきであると言う点だ。同じ号のBritish Medical Journalにはエディターのコメンタリー、及び学会有識者のコメンタリーも掲載され、この地道な戦いの結果、欧州では、薬剤の治験については登録し公開する事がようやく原則となる事を伝えている。我が国でもディオバンからSTAPまで捏造が大きな問題になっているが、委員会の調査とメディアの大騒動のあと何も残らないのは困る。この意味で今回朝日新聞に是非伝えて欲しかったのは、論文の結果だけからは見えないこのような背景の方だった。

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