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4月19日ダウン症候群の遺伝子発現(Natureオンライン版論文)

2014年4月19日
我が国の再生医学やiPS研究のプロジェクトの総括を務めたが、最も楽しかったのは科学技術振興機構のさきがけ事業「iPSと生命機能」だった。独立した若手研究者の研究を支援する事業で、年に2回全体会議で研究を聞き、選ばれた研究者にアドバイスする中で交流を深める事が出来た。うれしい事に現役を退いた今でも当時のメンバーから相談を受けたりすると、出来る限り多くの論文を読み少しでも役に立つ知識を集めようと励みになる。とは言え、さきがけメンバーの競争相手になりそうな論文を見つけると少し心配する。今日紹介する論文はそんな一つだ。スイスジュネーブ大学のグループがNatureオンライン版に発表した。タイトルは「Domains of genome.-wide gene expression dysregulation in Down’s syndrome (ダウン症で見られる全ゲノムにわたる遺伝子発現異常調節を示す領域)」だ。ダウン症候群は言うまでもなく21番染色体が1本増え3本になるトリソミーで起こるが、これがダウン症の症状にどうつながるのかはまだ明らかでない。ただ、ダウン症の細胞では21番染色体だけでなく、他の染色体にある多くの遺伝子の発現に全体的異常があるのではと疑われていたが、ダウン症を特徴付けるはっきりとした異常を見つけるには至っていなかった。ダウン症と言ってもその背景のゲノムはそれぞれ異なっており、共通の異常がマスクされてしまっている可能性がある。この研究は、トリソミー以外はゲノムがほぼ同じと考えられる一卵性双生児(片方はダウン症、もう一方は正常)の線維芽細胞を使う事でこの問題を解決している。研究自体は単純でダウン症と正常線維芽細胞で発現している遺伝子を比べ、両者の発現量の差を染色体上にマップしている。すると驚くべき事に、染色体に沿って、遺伝子の発現がダウン症で発現が高い領域、低い領域と交互に繰り返している事がわかった。これは遺伝子発現自体の高低ではなく、ダウン症と正常を比較した比の高低で、一卵性双生児の細胞同士を比べた時しかわからない。一卵性双生児で比べると言う着想が重要だったわけだ。事実ゲノムがほぼ同一と思われるマウスダウン症モデルでも同じ現象が見られる。更に同じ線維芽細胞からiPS細胞を誘導して調べた所同じ現象が見られている。従って細胞特異的ではなく、どの細胞にも見られる染色体のクセの様な物だ。理解のため誤解を恐れず要約すると、21番染色体が3本に増える事で、原因ははっきりしないがゲノム全体にわたって染色体構造に規則正しい乱れが生じて、遺伝子発現の機動性が損なわれると言う結果だ。そして、ダウン症の症状の多くも、ひょっとしたらこの染色体につけられてしまったクセから総合的に発生しているのかもしれない。もちろん他にも様々な実験を行っているが、結局一卵性双生児を比べてこの染色体のクセを現象として示した仕事で、メカニズムの解明はこれからだ。大変面白いヒントが得られたので、準備がしっかりできてヒントを探していた研究者達の研究は加速するはずだ。最初、私のさきがけメンバーの研究への影響はと心配したが、冷静に見ると逆にいいヒントを得たのではと胸を撫で下ろした。北畠君、頑張れ!

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