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4月28日:行動の科学(4月24日発行Cell誌掲載論文)

2014年4月28日
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誰でも自分の臭いと他人の臭いを嗅ぎ分ける事が出来る。ただ、これを科学的に解明しようとすると様々な壁が立ちはだかる。もちろんこの過程に関わる感覚、記憶、行動に関わる脳内プロセスもそうだが、何が自分の臭いかを特定する事自体難しい。3月23日にこのコーナーでも紹介したように、人間は最も敏感な人だと10の28乗種類の臭いを嗅ぎ分けるため、自分の臭いを定義する事自体が難しい。ところがフェロモンを使う実験は刺激物質が蛋白成分で対応する遺伝子が特定できる事から臭いの研究とはひと味違った研究が可能だ。この分野はこれまでほとんど論文を読む事がなかったが、今日紹介する論文を読んで、とても面白い実験系だと理解した。カリフォルニアにあるスクリップス研究所からの仕事で4月24日号のCellに発表された。タイトルは、「Murine pheromone proteins constitute a context-dependent combinational code governing multiple social behaviors(マウスのフェロモン蛋白は、コンテキストに依存した様々な社会行動を支配する組み合わせコードを形成する)」だ。この研究の背景には、全てのフェロモン遺伝子が特定され、それぞれを人工的に合成できるようにしたこれまでの研究がある。今日紹介する研究ではフェロモンにより誘導される2種類の行動を対象としている。一つは他の雄に対する攻撃行動、もう一つは他の個体が残した尿に含まれるフェロモンによって誘導される行動で、自分の尿で縄張りを主張する行動だ。攻撃行動を誘導できるフェロモンは相手だけに存在しており、自己と他を区別するのに使える2種類のフェロモンだが、最終的攻撃行動にはフェロモン刺激とともに相手マウスの存在を認識すると言う2種類の感覚が必要だ。一方縄張り行為は自己や同系統マウスの尿では誘導できないが、他系統の尿は例外なく誘導能力がある。なるほどと納得の結果だが、尿に分泌される個々のフェロモンについて反応を調べると、驚くべき事に単独のフェロモン分子にであれば、自己のフェロモンでも縄張り反応を誘導できる事がわかった。尿に分泌される全てのフェロモンを組み合わせて調べる大変な実験を繰り返してわかったのは、フェロモンの種類や量の組み合わせを自己の臭いとして学習しており、そこから外れると全て他と認識している。これが学習の結果である事を示すために、生後3週から自分の尿に加えて他の尿が足された環境で飼育すると、なんと自分の尿にたいしても縄張り行動を起こす。詳しくは紹介しないが、フェロモンを感じる細胞自体の反応を調べる事で、行動の神経細胞的基盤の一端も明らかにしている。砂輪育った環境に存在したフェロモンのコンビネーションを自己として参照していると言う結論だ。何か物知りになった気分のする研究だ。入り口の反応を明確に定義する事に成功したこの研究の意義は大きいと実感する。複雑な系にひるまず一歩一歩進める理詰めの研究の先に大きな自己と他を区別に関する大きな物語がある様な気がして来た。

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