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5月3日:老化とY染色体(4月28日号Nature Genetics掲載論文)

2014年5月3日
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論文を乱読していると自分が何も知らなかった事を思い知る。現役最後の2−3年、長崎大の宮崎先生と共同で行った高齢の被爆者の方の骨髄異形成症候群の研究を通して血液の老化について勉強したが、それでも加齢に伴い男性ではY染色体の欠失した血液細胞が増加するなど全く知らなかった。今日紹介する研究は、この高齢者男性の血液細胞に見られるY染色体欠失が私たちの身体にどのような影響を及ぼすのかを調べた研究で、スウェーデンのウプサラ大学のグループが4月28日発行のNature Medicineに論文を発表した。タイトルは「Mosaic loss of chromosome Y in peripheral blood is associated with shorter survival and higher risk of cancer (抹消血細胞で見られるY染色体欠失は寿命とがんリスクと関連している)」だ。ウプサラ大学では長期にわたって男性のコホート追跡を行っているが、追跡に参加した70−83歳の男性1141人から血液を採取、DNAアレーを用いて全ゲノムレベルで大きな変異が起こっているかを調べている。これまでの報告通り、確かにY染色体欠失は頻度が高く、大体1割程度の参加者で見られている。研究ではこの検査の後、参加者を追跡して、生存率、がんの発生率などを調べ、驚くべき結論に至っている。Y染色体欠損が見られたグループは正常と比べると寿命が5.5年短く、しかも血液に限らずあらゆるがんの発生が増えていると言う結果だ。参加者の中から数人を選んで経過観察中にY染色体を欠失した血液細胞の数がどのように変化するか調べているが、全員でY染色体の欠失した細胞の急速な増加が見られ、追跡中にがんが発生している。この結果が示唆するのは、Y染色体を欠失した細胞が正常の細胞を駆逐して行くと言う恐ろしい可能性だ。   なぜこのような事が起こるのか。一つの可能性は血液で見られたのと同じY染色体欠失が身体のあらゆる組織で起こっており、Y染色体を欠失して増殖力が旺盛になった細胞が最後はがんになると言うシナリオだ。事実多くのがんでY染色体の欠失が起こっている事が知られているらしい。もう一つの可能性はY染色体欠失を持つ異常細胞が増えた結果、免疫機能が障害され抵抗力が低下する結果がんが多発すると言う可能性だ。いずれにせよ恐ろしい。しかしここまで結果がはっきりしているのなら、70歳以上のリスク管理に役立つだろう。とは言え自分が検査を受けるかどうか、少し勇気が必要だ。

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