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5月7日:iPSから精子誘導(5月22日発行予定Cell Report掲載論文)

2014年5月6日
以前にも小保方さんのSTAP細胞についてこのコーナーで取り上げた時に書いたが、ESやiPS細胞応用にとって最も重要な課題は、分化細胞の誘導法の確立だ。これには大きく分けて2つの方法がある。一つは発生過程で起こっている事を完全に再現するために理詰めで検討を重ねる方法だが、時間をかけた粘り強い実験が必要で、かかる費用も大きい。一方経過を気にせず目的の細胞が得られればよしとするアプローチで、典型的な方法がいわゆる動物体内でテラトーマ(奇形種)を形成させる方法だ。事実テラトーマの中には多くの分化細胞が含まれている。今日紹介する論文は後者の方法でES, iPSから生殖細胞の誘導を試みた研究で、5月22日発行予定のCell Reportに掲載されている。カリフォルニア大学サンフランシスコ校からの研究で、タイトルは「Fate of iPSCs derived from azoospermic and fertile men following xenotransplantation to murine seminiferous tubules(無精子症患者と正常人由来のiPSをマウスの精管に移植した時の運命)」だ。研究の目的はY染色体の遺伝子に突然変異を持つ無精子症患者の分化異常部位を特定する事が目的で、いわゆる疾患iPSを用いたメカニズム解析の研究に分類できる。無論メカニズムを解析するためには精子への分化を再現する必要がある。このグループも最初はこれまで開発していた試験管内誘導法を用いている。正常と無精子症患者由来iPSの精子への分化を試験管内で誘導した後、分化異常が見られるかどうかを調べ、正常と比べた時無精子症患者のiPSは確かに分化異常がありそうだと言う所までこぎ着けている。ただ試験管内の方法では効率が悪すぎると思ったのだろう。マウスに移植して精子分化を誘導できないか試行を繰り返し、ついにこの論文で示された極めて簡便な方法を開発する事に成功している。私も極めて単純な方法だと納得するが、ある意味で乱暴な方法だ。即ちマウス精子が造られる精細管内のマウス精子を薬剤投与により除去し、空になった精細管に直接ヒトES or iPSを注入するだけでいいらしい。精細管に注入するための一定の技術は必要だが、後は待つだけの単純な方法だ。驚くのは、精細管に注入するとテラトーマは出来ずほとんどの細胞が精子分化の方向に動く。本当かなと思わずにはいられないが、精細管の外へES細胞を移植した場合は、テラトーマが出来るので、やはり精細管はかなり特殊な環境を提供しているようだ。この様な簡単で精子分化に特異的な方法が開発できると、疾患メカニズム解析はかなり楽になる。無精子症iPSを精細管に移植すると、数は少ないが未熟な生殖細胞の分化マーカーを発現している細胞を観察できる。こうして出来た細胞の多くで染色体全体にわたるDNAメチル化が見られる事から、確かに精子分化が進んでいる事が確認できる。しかし更に分化が進んだ細胞に関しては全く観察する事が出来ない。これらの結果から無精子症患者では未熟な生殖細胞は数は少なくともなんとかできるが、それ以降の分化が阻害されていると結論している。しかし初期段階の分化も効率が悪いのは何故か?正確にはどの分化段階が障害されているのか?など、「一見使い易そうに見える系だが、結局メカニズムの特定に使えるほどの精度はないのでは?」と勘ぐりたくなるのは専門家の悪いクセだ。しかしiPSでもSTAPでもナイーブに発想する事が成功につながる事は多い。簡単な方法の開発を素直に喜ぼう。

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