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5月14日:瀰漫性胃がんのエクソーム解析(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2014年5月14日
胃がんは日本人に多いがんだったが、がんの中でも治療成績がよく進行がんも含めて5年生存率は6割を超える。しかし胃がんの中でスキルスがんとして知られる瀰漫性のタイプは発見が難しく、また進行も早いため5年生存率は2割を切るのではないだろうか。昨年友人をやはり瀰漫性胃がんで失ったが、発症から半年で亡くなってしまった。この瀰漫性胃がんのエクソーム解析が東大のグループからNature Medicineオンライン版に報告された。タイトルは「Recurrent gain-of-function mutations of RHOA in diffuse type gastric carcinoma (瀰漫性胃がんに高頻度に見られるRHOAの活性型突然変異)」だ。元々このタイプのがんは組織反応が強く、がん細胞だけを集めるのが難しい。そのため解析が遅れていたようだが、この研究でも得られたサンプルに含まれるがん細胞の比率は高い場合でも60%、低い場合だと20%しかない。この問題を克服しながら、正常細胞とがん細胞を比べている。当然これまで胃がんで知られていた突然変異が瀰漫性胃がんにも見つかっている。ただ見た所、間違いなく新しい創薬標的の可能性のある分子はこの中には含まれていない。この研究のハイライトは、普通の胃がんには全く見つかっていなかったRHOAと言う分子を活性化させる突然変異が25%の患者さんに見つかり、さらにこの分子の関わるシグナル経路の分子の突然変異も入れると4割近い患者さんで、RHOA経路の活性化が見つかっていると言う点だ。カドヘリンと呼ばれる接着分子の突然変異も瀰漫性に特異的な突然変異だ。私はもちろん胃がんについては素人だが、しかし、瀰漫性胃がんでこの2つの遺伝子に突然変異があると示されると妙に納得する。何故かと言われると困るが、RhoAは細胞骨格の変化と細胞増殖の両方に関わる事が知られており、瀰漫性の胃がんで活性化されている分子としての資格は十分だ。一方細胞間の接着に関わるカドヘリンも、組織からがん細胞がこぼれて増殖する性質を説明する。残念ながら今回の仕事では瀰漫性胃がんでなぜ組織反応が強いのかを説明する事は出来なかったようだ。この性質は膵臓がんにも見られる、予後の悪いがんの特徴なので是非この原因も突き止めて欲しいと期待する。いずれにせよ、RhoAシグナルについては薬剤開発の可能性が十分ある。論文でも、この分子の発現が抑制されるとがんの増殖を抑制できる事が示されており、期待したい。胃がんについて全ゲノムも含め更に包括的に行われた研究がファイザー製薬と香港大学のグループからNature Medicineに掲載されていたが、エクソームから得られる以上の驚くべき結果が示される所までは至っていないようだ。今後ゲノム分野の情報処理技術の一段の進歩が必要だろう。しかしファイザーと聞くと、我が国の製薬企業がゲノムに対して真剣に取り組んでいるのか大いに心配だ。

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