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5月28日:演奏家による楽器(バイオリン)の評価(5月20日号アメリカアカデミー紀要掲載論文)

2014年5月28日
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私の様なクラッシック音楽の消費者は、演奏家がどの楽器を使っているのか一応気にする。実際には、演奏家が様々な楽器を弾き比べるのを聞いたわけではないのだが、どの楽器を使っているのかは演奏家のプレステージだと思っている。特に弦楽器では、イタリアのストラディバリウス、グァルネリ、アマティ等が定番だ。また、弦楽器は一定の期間が経ないといい音がしないと言う通説もそうかと納得している。ただ、音楽の消費者にはその真偽を確かめる術はなかなかない。この間をつなぐために、科学的(?)に古いバイオリンが本当に好まれる音を出すのか確かめる調査がこれまでも行われたらしい。特に有名なのがインディアナポリスの音楽コンクールで行われた調査で21人の演奏家に新旧のバイオリンを弾いてもらい好きなバイオリンを指摘してもらった所、ほとんどが新作のバイオリンを気に入ったと言う結果だ。しかしこれが科学になるためには、追試が必要だ。今日紹介するパリソルボンヌ大学からの研究は、インディアナポリスの研究が再現できるかどうかを、慎重に条件を設定して検討した研究で、5月20日号のアメリカアカデミー紀要に掲載された。タイトルは「Soloist evaluations of six old Italian and six new violins(独奏者による6台の新しいバイオリンと、6台のイタリア製古いバイオリンの比較)」だ。研究で選ばれた古いバイオリンはグァルネリ、ストラディバリウスを集める一方、新しいバイオリンは制作されたばかりの物から、せいぜい制作後20年までのバイオリンを集めている。参加した10人のバイオリニストも、チャイコフスキー、ロンティボー,シベリウス、パガニーニ、エヴリン・フィシャーなど名だたるコンクール入賞者だ。このうち2人は新しいバイオリンを使っているが、残りはストラディバリウス、グァルネリをずっと使って来た演奏家だ。テストでは、最初短い時間で気に入ったバイオリンを3台選ばせ、その後時間をかけてどれがいいかを決めてもらっている。結果は予想通り(?)で、最初軽く弾いたときも、その後ゆっくり調べたときも気に入られたバイオリンの1、2位は新作のバイオリンで、3位,4位にようやく古いバイオリンが入った。他にも様々なことが調べられているが、通説を覆し、音の拡がりも新作バイオリンの評価が高かった。一方新しいバイオリンは、弾き易さや,音の明瞭さなどが感じられるようになるまで弾き込む必要があるとされていたが、この通説は確認された。いずれにせよ、ほとんどの通説は当てにならないと言うことで、今度は聞き手についても調べてみれば面白い。驚いたのは、新しい古いは意識せずに音や拡がりを基準にすると、ほとんどの演奏家が一つのバイオリンを選んだことで、バイオリン製作者の励みになること間違いない。悪いクセだが、この様な研究の助成はどのように行われているのか気になったのでアクナレッジメントを調べてみると、フランスの国家研究助成局、マリーキューリー大学の公的資金とともに、アメリカバイオリン協会の寄付によっても支えられているようだ。この様な交流が、新しい音楽のあり方を造ることは間違いない。

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