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6月7日:モルヒネによる便秘に対する新薬(6月4日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2014年6月7日
がんによる症状の中でも患者さんを最も苦しめるのが痛みだ。私が医師として病院で働き始めたのは1973年だが、現在では標準として使われているモルヒネの経口投与は行われていなかった。習慣性のある麻薬は避けるべきだと言うタブーがあったのかもしれない。そんな時イギリスのブロンプトン病院では経口モルヒネを大量投与ががん性とう痛に大きな効果を上げていることを聞いた。日本では1978年位からこの治療が始まったが、私自身は治療に利用する機会が来るまでに医師を辞めてしまった。それから40年近く、現在もがん性とう痛の最も効果的治療として世界的に何千万の患者さんに処方し続けられている。この論文を読んで不勉強を思い知ったが、現在ではがん性とう痛に限らず、様々な原因の痛みに対する治療としてモルヒネが使われるようになっているらしい。論文ではアメリカだけで1年に2億回分の処方が行われていることを紹介している。しかしモルヒネは脳内の受容体に働いて痛みを抑えるだけでなく、腸管の受容体にも働き、腸神経を刺激して腸管の動きを変化させ便が前に進まなくすると同時に、腸管腔への水分や電解質の分泌を抑えてしまう。この結果患者さんは強い便秘に悩まされる。モルヒネ投与時、下剤を処方するがなかなか期待通りの効果がないのが現状だった。今日紹介する論文はモルヒネ投与による便秘に対する新薬ナロキセゴールの第3相臨床治験の結果を報告したミシガン大学等からの研究で6月4日にThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Naloxegol for opioid-induced constipation in patients with noncancer pain(がん以外の痛みに対する麻薬投与による便秘に対するナロキセゴールの効果)」だ。ナロキセゴールはモルヒネ受容体に対する抑制剤ナロゾンにポリエチレングリコールを結合させた薬剤で、ナロゾンが脳血管障害を越えないようにすることで腸管だけに作用する様にした薬剤だ。この改変によりモルヒネの脳に対する効果はそのままで、腸管に対する効果は抑制できると言う合理的な薬剤だ。研究ではがん以外の痛みに対してモルヒネ投与を受けている患者さんを選び、投与後12週間、2重盲検無作為化を行う統計学的に確かな方法でこの薬剤の効果を確かめている。結果は期待通りで対象と比べると週3回以上の便通が起こる患者さんが15−20%増えたと言う結果だ。一方、痛みを抑制するモルヒネの効果はそのまま続き、大きな副作用もない。薬剤の原理を考えるともっと効果があっても良い様な気がするが、モルヒネによる便秘に対する論理的な薬剤が初めて開発されたことはうれしいことだ。古代エジプトに芥子の実を鎮痛に使うと言う記録があるらしく、人類の知恵が経験的に開発した痛みを抑える薬が、麻薬として一般に利用されるようになったために医療で気軽に使いにくくなり(もちろん医療でも使い続けられていたが)、その後見直されて今はがん性とう痛に限らず広く特効薬として使われているという歴史を振り返ると、人類の知恵と愚かさの両面をつくづく感じる。調べてみるとFDAの許可は昨年暮れにおりているようだ。日本でも同じ様な薬剤が進んでいる様で、更に古代からの知恵を利用できるようになると期待できる。

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