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6月9日:コンソーシアム型プロジェクトの重要性(6月5日号The American Journal of Human Genetics掲載コメンタリー)

2014年6月9日
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科学研究から科学者間の競争を除くことは健全な発展を阻害する。しかし、競争的側面を出来るだけ薄めて協力し合うことで達成できるプロジェクトも多い。実際物理学では加速器を個人の研究者の希望に合わせて作るわけにはいかないため、何百人もの研究者が一つのプロジェクトに協力し、論文の著者欄にはアルファベット順に名が並ぶと言うことがあるようだ。無論生命科学にもコンソーシアム型研究は多いが、私の現役時代の経験から言うと、個人のシェアを押さえて全体的目的を実現するコンソーシアムは、我が国の研究者の苦手な分野の様だ。同様にアメリカもこの様な全国コンソーシアム型研究は比較的苦手だ。以前カナダ全国の施設が集まるコンソーシアム型プロジェクトのアドバイザーを務めたことがあるが、その時ハーバード大学の委員がなぜコンソーシアム型で行わなければならないのか不思議そうに聞いていたのを覚えている。考えてみれば、ハーバード大学には全てが存在しており人も金も患者さんも全て内部で揃うため、全国ネットワークを作ると言う意味が理解できないのだ。この点から言えば我が国のコンソーシアムは、外見はカナダ型でも心はアメリカ型、と一貫性が無いことが多い。しかし日本の1つの大学の規模では到底ハーバードには太刀打ちできないことを考えると、全国コンソーシアム型も重要だ。今日紹介するコメンタリーは、カナダの希少疾患を発見するFORGE CANADAプロジェクトを紹介したコメンタリーで、The American Journal of Human Genetics6月号に掲載されていた。タイトルは「FORGE Canada consortium’ outcomes of a 2 year national rare disease gene-discovery project(カナダFORGEプロジェクト:希少疾患遺伝子探索プロジェクト2年間の成果)」だ。このプロジェクトは我が国の文科省の拠点プロジェクトに似ており、遺伝的疾患を扱っている3大センターと21施設、約170人の研究者・医師が集まるプロジェクトで、診断の難しい遺伝疾患を次世代シークエンサーでどの程度診断できるかを調べている。もちろんアメリカでも同じ様な研究が行われているが一施設で行われることが多い。ここでも昨年10月アメリカベーラー大学の研究を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/854)。これまでの研究と比べるとプロジェクトの運営はよく設計されており、例えば同じ症状の患者さんが比べられるケース、家族を調べられるケース、患者さん一人しかいないケースなど様々な状況に応じて診断確率を算定するなど、データとしての応用価値は高い。またエクソーム解析を導入してこれまで診断できなかった患者さんの25%が確定診断できたとするベーラー大学と比べても素晴らしい結果を残している。2年間に全国から集まった264人の患者さんのうちなんと半分以上の146人について原因遺伝子が明らかになったと言う結果だ。しかもその中には67人のこれまで知られていなかった遺伝子が原因の病気も含まれていた。まず、これまで紹介して来たようにゲノム解析は大きな威力を持っており、出来るだけ早く臨床現場で利用が進むようにしなければならない。しかしこの結果の重要性は病気の治療や予防にとどまらない。この結果から67もの新しい遺伝子のヒトでの機能を調べる可能性が生まれている。当然iPSを作成して発生段階の研究も可能だ。我が国では疾患iPSの拠点型プロジェクトが進んでいる。しかしこの様なゲノムプロジェクトとの連携はほとんど行われていない。効果のあるコンソーシアムの組み方について、我が国の行政も真剣にカナダから学ぶ必要がある。

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