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6月13日:IGF1陽性の乳がんは食事療法の効果がある(Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention誌6月10日号掲載論文)

2014年6月13日
肥満と乳がんの発生や予後との関係はこれまでの疫学的研究から指摘されている。しかしダイエットが乳がんの予後に影響があるかどうか、研究は行われて来たが確かな証拠を得ることは出来ていなかった。最近IGF1(インシュリン様増殖因子)に対する受容体(IGF1R)の発現と乳がんの予後に相関があることがわかって来たため、肥満と乳がんを結びつける一つの要因がIGF1システムではないかと疑われた。今日紹介する論文は、この可能性を確かめるために行われたカリフォルニア大学サンディエゴ校のグループによる介入試験で6月10日号のCancer Epidemiology,Biomarkers & Preventionに掲載された。タイトルは「Risk of breast cancer recurrence associated with carbohydrate intake and tissue expression of IGF1 receptor (IGF1受容体を発現する乳がん患者の炭水化物摂取と再発率とは相関する)」だ。この調査はステージI-IIIの乳がんの患者さんに治療後、低脂肪、低炭水化物食を処方するグループと、それ以外のグループにわけ再発を調べている。このダイエットプログラムでは大体25g/日程度の炭水化物削減が行われている。さて結果だが、従来の研究と同じでIGF1Rの発現が高いと予後は悪い。次にIGF1Rの発現の低いグループと高いグループに分けて予後を調べてみると、IGF1Rの低いグループではダイエットの効果は全くないが、IGF1Rの高いグループがダイエットをするとダイエットをしないグループに比して再発率が1/5に低下し、IGF1R発現の低いグループと同じ再発率に戻ると言う結果だ。要するに、がんのIGF1R発現を調べて、高い人にはダイエットを勧めれば再発をかなり防げると言う結果だ。今日紹介したのは遺伝子の発現で、遺伝子自体の突然変異ではないため、エクソーム解析ではわからない。しかしこの研究もまた、がんを知って戦うことの重要性を示している。残念ながら我が国ではエクソームや遺伝子発現を網羅的に調べてがんを知って戦うことはほとんど行われていない。しかし技術は既に完成しているので、誰もががんと戦うために相手をしっかり知ることの出来る医療システムのために私も微力を尽くしたいと考えている。この論文を読んだ同じ日、Nature誌6月12日号に「Cancer-gene data sharing boosted(がん遺伝子データの共有が加速している)」というレポートが出ていた。アメリカ最高裁は最近遺伝子配列自体に特許性を認めないという判決を出した。これにより、これまでMyriad社(BRCA1特許を持つ)などの独占性が排除され、遺伝子検査の利用が加速すると考えられる。この記事では、アメリカでこれまで会社に蓄積されたデータは公共の利用に供すべきであるとする運動が始まっていると報じている。もちろん、Myriadがすぐにこの要求に応じるとは思えないが、記事ではプライバシー保護を名目に公開されなかった個人ゲノムのデータは今後パブリックな利用を進めるため公開される方向に進むと言う予想している。今日紹介したように、がんを知ることは自分のためになる。ただ、その結果が集まると、更に病気の理解が深まり、回り回ってまた個人に帰ってくる。このサイクルをスムースにするためのアイデアを生み出すことが私たちNPOの主要な課題だと自覚している。

  1. kinya fujita より:

    1月30日のブログのコメント欄に、理研の改革委員会の提言を受けた質問をまとめました。その後の本ブログでは、生命科学の根幹にかかわる(と思う)このstap細胞問題は一切ふれられていませんが、小保方さんを理研に「導入した」人間として関心がないはずがないと考えますので、なんらかの意思表示が必要かとも思います。先生のあとを受けた笹井先生のお苦しみを考えるにつけても。

    1. nishikawa より:

      私の知っていることは全て明らかにして本を書いております。前向きの議論なしに、解体が結論されるのは、改革委員会が政治家や役所の怒りを代弁しているからだと思っています。委員会が出来るより前にCDBと学会が協力して政治的判断が出来ないと、この結果は予想できます。いずれにせよ、急いでコメントを出した所で意味が無いでしょう。ゆっくり考えて「日本の科学報道を問う」と言う本にして皆さんにお示ししますのでお待ちください。

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