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6月18日:バイオニック膵臓(6月15日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2014年6月18日
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AASJチャンネルでI型糖尿病について対談した時を含めて、これまでこの病気については細胞移植、分子シャペロン、免疫抑制療法などの進展について主に紹介して来た。1度紹介したが、血中のグルコースに合わせてインシュリンを注入するポンプを中心に機械に膵臓の代わりをさせる試みも行われ実用化されている。ただ膵臓はインシュリンに加えてグルカゴンと言うホルモンも分泌し、より微妙な血中グルコース調節を行っている。これを機械で行おうとすると、インシュリンとグルカゴンを生理的な割合で投与する複雑なアルゴリズムの下で動く精巧な機械が必要になる。今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文は、携帯型バイオニック膵臓についての報告で6月15日付けのThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Outpatient glycemic control with a bionic pancreas in type 1 diabetes(バイオニック膵臓による1型糖尿病の外来患者さんの血糖コントロール)。結論は、開発中のバイオニック膵臓によって、これまでのインシュリンポンプ以上の精度で血糖を調節でき、また心配する低血糖発作も無いと言う結果だ。期待できる。この論文を特に紹介したいと思った理由はこの結果より、開発中の機械の構成だ。血中グルコース濃度だけでなく、どの程度の食事をするか、運動の仕方など様々な入力を全て統合してインシュリンとグルカゴンの投与量を調節するロボットと言っていい機械だ。これまでつけはずしが出来る血中グルコースセンサー、PCでコントロールできる微小ポンプなどは全て開発されているが、問題は様々な入力を処理できるコンピューターをどうするかだ。これまでのようにわざわざ新しく設計する代わりに、このグループはiPhoneを利用している。センサーやポンプとはブルートゥースなどの無線で連結し、またiPhoneからも様々な入力が可能だ。複雑なアルゴリズムも十分収まるコンピューターの機能も十分で、確かにコストをずいぶん削減できるはずだ。ラジオ少年がパーツを集めて新しい機械を作って行く様子を見ている気がするが、この手作り的医療器械開発の仕方が将来を教えてくれている気がする。現在のバージョンでは、5日間の使用でほとんど問題は出ていないようだが、グルカゴンの寿命が短いこと、またグルカゴンの効果が正確でなくなるのでアルコールが制限されるなどまだまだ改良が必要だ。さらにiPhoneの安定性も問題だ。ただ将来、生きた膵島移植か、完全バイオニック膵臓かを患者さんが選んで、正常人と全く同じ生活を送れる日は必ず来ると確信した。
  1. Okazaki Yoshihisa より:

    血中グルコース濃度だけでなく、どの程度の食事をするか、運動の仕方など様々な入力を全て統合してインシュリンとグルカゴンの投与量を調節するロボットと言っていい機械

    →完全機械化も可能性のある選択枝になってきたんですね。

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