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6月25日:食道がんの発生までの遺伝子変化(Nature Geneticsオンライン版掲載論文)

2014年6月25日
食道がんになったと言う話を周りでよく聞く。皮膚と比べても、食道は毎日の食事の入り口として常に強い刺激を受け続け、下からは胃酸など消化液の刺激にも耐え続ける必要がある。事実、慢性的な刺激と食道がんとの関係は古くから調べられており、奈良の茶粥と食道がんなどはその例だ。このことから、最終的な食道がんが出来るまでに、刺激に反応する前癌状態から始まる長い過程があると考えられていた。その代表が、バレット食道と言われる状態で、通常は表皮の様な構造をした食道粘膜が腸の様な上皮に変わる状態だ。今日紹介する論文はこの前癌状態、更に進行した高度の異型細胞形成、そして食道がんまでの過程で起こる遺伝子の変化を調べた研究で、ケンブリッジ大学を中心とした英国グループから報告されている。タイトルは「Ordering of mutation in preinvasive disease stages of esophageal carcinogenesis(前癌状態から食道がんまでのがん発生過程の突然変異の順序)」だ。食道がんのゲノム解析はこれまでも報告されているが、この研究でも先ず22例の食道がんの全ゲノム解析を行い、正常細胞とどこが違うのかを確認している。この中から食道がんで頻度が高い遺伝子変異をリストし、バレット食道細胞と食道がんでこれら遺伝子の変異に特定の違いがあるか調べている。先に述べたように、食道がんは刺激からがん化まで段階的に進むがんの典型と考えられている。しかし遺伝子で見ると、全く予想に反してp53,SMADと呼ばれる遺伝子以外の変異は全て前癌状態から見られることが明らかになった。前癌状態とがんの間に位置すると思われる異型性が強くなったバレット食道を比べると、異型性の低いバレット食道には見られなかったp53遺伝子が先ず変異を起こすことで、異型性の強い細胞が生まれ、そこにSMAD4と言う遺伝子の変異が重なると食道がんへと段階的に発展することが明らかになった。この遺伝子の変異パターンから、バレット食道状態は、一般的にがんに必須と言われる細胞増殖を促進するドライバー遺伝子により誘発され、そこに細胞死を抑制するp53が加わることで悪性への転換が進むようだ。重要なのは、細胞増殖促進と細胞死の抑制と言うがん化に必要な基本過程はバレット食道の段階で全て終わっている点だ。とすると、バレット食道の早期診断が重要になるが、この研究では食道全域から細胞をまんべんなく集めてくる食道スポンジと言う技術を開発し、内視鏡では見落とされる悪性化が始まったバレット食道細胞を早期に発見できないか調べ、この方法によって異型性が強くなった細胞に起こるp53突然変異の8割以上が診断できることを示している。ゲノム研究によってがん早期診断の可能性がまた一つ生まれた。残念ながら、今のところp53変異に対抗できる方法は一部の遺伝子治療を除いて開発されていない。とすると、出来ればバレット食道の初期に見られる変異を指標にして早期診断を行い。異型性転換が起こらないようにモニターしながら予防して行くのが最善の策かもしれない。いずれにせよ、がんを知って初めて戦略を構想できることがよくわかる仕事だ。

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