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6月29日:耳鳴りの効用(Brain Research7月号掲載論文)

2014年6月29日
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実を言うと熊本大学にいた1990年前後から耳鳴りが始まり現在に至っている。といっても結局は耳鼻科に相談することもなく、現在まで放置して来た。ただ少しずつ聴力も低下を続け、今年はじめに補聴器を買うはめになった。考えてみると、40歳に入ってすぐからこの耳鳴りとつき合っていることになるが。持続的にキーンと言う音がする割には、コンサートも楽しんでいるし、眠りが妨げられるわけでもなく、なんとか付き合える。たとえ末梢にある有毛細胞の異常で音が発生しているとしても、聴覚中枢に連結するネットワークがなんとかバランスをとって気にならないようにしているのだろうと一人で納得して来た。生物学的には面白い現象のはずだが、この一年いろんな論文に目を通して来たが、耳鳴りについての研究を読んだのは今日紹介するイリノイ大学の研究が初めてだ。タイトルは「Alteration of emotional processing system may underlie preserved rapid reaction time tinnitus(感情処理システムの変化が耳鳴り患者の反応時間の迅速性維持に関わる)」で、Brain Research7月号に掲載された。研究では、正常人、耳鳴り患者、耳鳴りはないが聴力障害のある患者さんに気持ちのいい音、不快な音、あるいは感情に影響のない音を聞かせて、それに対する反応を自覚的、あるいは機能的MRIを使って調べている。詳しいデータがわかりにくい表で示されており、しっかり数字と付き合う忍耐力はないので、本文と図を見た上で理解出来た範囲で紹介する。この研究で感情に影響する音を選んで反応を調べているのは耳鳴りに感情に関わる脳の辺縁系が関わっていることを示唆する研究が既に数多く発表されているためだ。ただ、これまでの研究は辺縁系の一つ扁桃体の活動が耳鳴で高まると報告されて来た。しかしこの結果はこの研究で調べられた中程度までの耳鳴り患者では確認されていない。代わりに、全ての例で海馬傍回と島皮質の活動が上昇していることが検出されている。異常な音が持続して聞こえるなら脳のどこかが興奮するのは当たり前と言わず、もう少し聞いて欲しい。この論文を読んで一番感銘を受けたのが、耳鳴りのおかげで、聴力障害があっても不快な音、快適な音などの感情に影響する音に対する反応が正常人と同じレベルに保たれていると言う結果だ。一方、耳鳴のない同じ程度の聴力障害患者では、同じ音に対する反応が低下している。もちろん耳鳴り患者さんにも聴力障害はあるので、感情への影響のない普通の音を聞かせると、聴力障害の影響がそのまま現れ、正常人と比べると反応が遅い。即ち、感情に影響する音に対しては、聴覚の低下を耳鳴りが補っていてくれると言う結果だ。これまで耳鳴りを悪い状態としてだけ見て来たが、効用もあるようだ。これを私流に都合良く解釈して終わる。耳鳴りのおかげで、聴力が落ちても音楽などの感情的な音に十分反応できる。耳鳴りのおかげで、海馬傍回、島皮質などに新しい回路が開発され、少々の刺激に耐える強さが身につく。おそらくこの結果、世間から聞こえるブンブンうなる雑音には影響されないようになる。耳鳴りはありがたい。

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