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7月4日:未完のヒト体細胞初期化(Nature誌オンライン版掲載論文)

2014年7月4日
昨日覗いてみたNatureウェッブサイトには我が国で各紙が大きく報じた小保方論文撤回の記事が出ていたが、同時にヒトの体細胞リプログラミング研究にとって重要な論文がウェッブページのトップに掲載されていた。オレゴンの生殖医学の研究所からの「Abnormalities in human pluripotent cells due to reprogramming mechanisms(リプログラミングによる多能性細胞に見られる異常)」と言う論文だ。4月30日このホームページにニューヨーク幹細胞研究所の山田さんが体細胞核移植によるヒトクローンES細胞を樹立したことを紹介した。その時読者の方からヒトクローン由来ES細胞樹立論文が2013年オレゴンからCellに発表されていると指摘をうけた。調べてみるとそのとおりで、Cell論文も立花さんと言う日本人が筆頭著者であることを知り、ヒトクローンの研究の全てに日本人が関わることを知り喜んだ。今日紹介する論文は、この時作成されたヒト体細胞クローン由来ES細胞(NTES)と、同じ体細胞から作成したiPS細胞、そしてNTES作成時に提供された同じ卵を人工授精させて作成したES細胞を揃えて、そのゲノムやエピゲノムの比較からリプログラミングの限界を探る研究だ。NTESは卵子の中の初期化因子によるリプログラミング、iPSは言うまでもなく山中4因子を導入しておこるリプログラミングだ。残念ながらES細胞の遺伝的バックグラウンドを揃えることは出来ないが、NTES とiPSは全く遺伝的に同じと考えられることから、技術自体の持つ問題を正確に評価できる。結果はわかり易い。先ずリプログラム過程で起こる遺伝子変異を染色体部分のコピー数の変化を指標に調べている。平均的にはiPSの方がNTESよりコピー数の変異を来し易いが、統計学的には差がない。リプログラミング後も遺伝的変異が見られない場合もあることから、幾つか選んだクローンの中から変異の少ない株を選ぶのが現実的だろう。さて2つの方法に大きな差がでたのが、メチル化DNA解析で、完全な多能性状態を代表すると考えられるES細胞と全ゲノム領域をカバーするDNAアレーを用いて比べたとき、メチル化、脱メチル化がうまく進んでいないゲノム部位がiPSでは6500か所存在する一方、NTESでは約100か所しかなかったと言う結果だ。他にもメチル化が遺伝子発現に関わることがはっきりしている遺伝子についても個別に調べ、どの方法で見てもNTESのほうがiPSよりはるかに正確にリプログラムされていると言う結果が出た。このリプログラミングの不完全性に対応して、遺伝子発現でもNTESの方がiPSよりはるかにES細胞に近いと言う結果だ。実際には予想されていたことだが、iPSしか存在しない時にはわからないことがヒトクローンESが可能になることで初めて明らかになった。さて小保方論文以来、追試の重要性がマスメディアでも強調されているが、この論文の追試を行うのは並大抵ではない。今のところ今回とは別の細胞を使って追試が出来るのは、4月30日に紹介したニューヨークのグループだけだろう。法的には我が国もNTES樹立が可能で、立花さん、山田さんなど経験を持った研究者もいるはずだが、結局これが可能なのはアメリカしかないのは残念だ。私は1月30日小保方論文を紹介した時、次のように書いた。  「何れにしても小保方さんの結果により再認識させられるのは、どの方法でリプログラミングを誘導しようとも、リプログラミング自体が生理的な過程ではないことだ。事実、私たちのゲノムは30億塩基対という膨大な物だ。この30億塩基対のエピジェネティックな状態の細部を思い通りに制御するなど至難の業だ。」  しかし思い通りにリプログラムできるようにするのが科学で、それが実現した時にはiPSもNTESも必要なくなっているはずだ。

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