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7月7日創薬の難しさ(Alzheimer`s Research &Therapy誌オンライン版、及び全米医師会雑誌掲載論文)

2014年7月7日
七夕は思いが成就する日だが、今日紹介する2つの論文は患者さんの期待と創薬努力がミートしないケースが多くあることを指摘した残念な論文だ。最初の「Alzheimer’s disease drug development pipeline: few candidates, frequent failures (アルツハイマー病治療薬開発状況:候補薬は少なく失敗が多い)」とタイトルのついたクリーブランド病院からの論文はAlzheimer’s Research & Therapy誌オンライン版に掲載されている。これは誰もがアクセスできる医学専門情報を扱うPubMed Centralからアクセスできる。さて治療や医療技術開発のための臨床治験を論文として公表したい場合、治験開始からアメリカNIHが運営するClinicalTrials.gov (https://clinicaltrials.gov/) に登録が義務づけられている。このサイトを見ると現在約17万件の臨床治験が、187カ国で進められていることが示されている。この数字から人類が日夜病気を克服しようと力を尽くしていることがわかる。しかしまたこの努力の多くが実らないことも確かだ。この論文では2002年から2012年にかけてこのサイトに登録されたアルツハイマー病治療法の治験の状況について調査している。21世紀に入ってからアルツハイマー病の研究が進んだが、これに呼応して2009年まで急速に治験の数が増え、2010年以降はほぼ横ばいで推移している。この中にはアルツハイマー病のメカニズムに直接関わる標的Aβやタウ蛋白に対する治療薬や神経死抑制薬も含まれている。10年で413という数が多いかどうかは別として、アルツハイマーに対しても新しい薬剤開発が続いていると言う励まされる報告だ。ただ問題は成功率で、治験の終わった244の薬剤の中で市場に出たのが1つだけで、成功率が0.4%にすぎなかった点だ。薬剤の中のかなりの数が、動物を用いた前臨床研究で十分な効果が見られている。基礎の論文を読んでいるだけだと、天の川を(死の谷)を渡ることも難しくない印象を持つが、薬剤開発は一筋縄でいかないことを示している。前臨床試験が完璧でも臨床試験がうまく行かない例としてmTORと呼ばれる分子を標的とする薬剤がある。この分子は正常の免疫機能とともに多くのがんで重要な機能を持つことがわかっており、これに対する阻害剤を用いた試験管内の研究や、この分子を調節するPTENと呼ばれる分子をノックアウトしたマウスを使った研究から極めて有望な薬剤であることが期待されていた。様々ながんで治験が進められて来たが、ようやく腎臓がん等に使用が許可されたものの、私が期待していたほどではない印象を持っていた。7月号の全米医師会雑誌にこの薬剤の一つエベロリムスを進行性の肝臓がんに試した治験が出ていたので最後に紹介する。「Effect of Everolimus on survival in advanced hepatocellular carcinoma after failure of sorafenib (ソラフェニブが有効でなかった進行肝がん患者さんの生存に及ぼすエベロリムスの効果)」で、世界各国を巻き込んだ国際治験だ。肝がんについてもこれまでAKT/PTEN/mTORのシグナル経路が重要であると言う多くの前臨床研究があった。しかし今回500人近くの進行肝がんの患者さんで調べた研究結果は、エヴェロリムスが全く患者さんの生存を伸ばす効果がないと言う悲しい結果だ。いかに前臨床研究で期待できる結果が出ても、実際の患者さんに対する治験では失敗に終わる薬剤は多くある。このことは治験に協力しても報われなかった患者さんが数多くいることを意味している。もし前臨床試験と臨床試験の解離が余りに大きい場合は、基礎研究者も使っているモデルを真剣に再検討すること要求されるはずだ。基礎研究者もそのことをよく肝に銘じて、自分が使っているモデルが臨床試験に対する予測性をどの程度持つのか常に考え、論文に正直に明記する気持ちを持って欲しい。

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