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7月9日:サルも相手は顔で選ぶ(6月26日Nature Communications掲載論文)

2014年7月9日
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ハイテクを使った系統発生や変異の研究と言うと、現代ではほぼゲノム研究と同義語になっているが、周りを見渡せば利用可能な技術はいくらもあるようだ。今日紹介する論文は、近い種が混じって存在するジャングルで、オナガザルが何を指標に交尾相手を選んでいるかを調べたニューヨーク大学からの研究で、6月26日Nature Communicationsに掲載された。タイトルは「Character displacement of Cercopithecini primate visual signals(オナガザル視覚シグナルの形質転換)」だ。この研究では22種のオナガザル149個体の顔の写真を、アメリカ、英国の各動物園及びナイジェリアの自然公園で撮影し、約1500枚のイメージを集めている。論文の図1はこのサルの顔で埋められており、壮観だ。一方系統発生の研究に必須の遺伝子比較による系統解析はこれまでの研究をそのまま使っている。はっきり言えばオナガザルの写真を集めただけの仕事と言えるが、この写真を「eigenface(固有顔)」として知られる顔解析ソフトを用いて数値化し、顔の類似性を数値化した上で系統間の距離を計算し、顔の似方がサルのどの性質と相関するかを調べている。ここでのハイテクはこのeigenfaceソフトで、勿論人間の顔認識のために開発された技術だ。皆さんも日本人の平均顔の写真を見たことがあると思うが、このソフトではまず出来るだけ多くの顔写真を集め、各要素が標準化された固有顔を作成する。この集合が固有顔で、個別の顔はそれぞれの固有顔から要素を持って来て描き直すが、その時のどこをどの程度持って来たかがその顔の数値になる。この論文では最初11の固有顔を作成し、これで約94%の顔が表現できることを確認している。正直言うと具体的な数理については私もよくわからないので、科学的に似ているかどうかを数値化したと考えればいいだろう。ではそれぞれのオナガザルの顔解析の結果は、何と相関するのか。残念ながら遺伝子による系統関係とは相関がない。結局最も相関したのが、それぞれの種の生活圏の間の距離と逆相関した。言い換えると、生活圏が重なるほど顔ははっきりと区別できるようになる(似ていない)と言う結果だ。このグループはこの結果を、オナガザルは同じ種の交尾相手を顔で決めているため、生活圏が重なる場合は間違いが起こらないよう自然に顔の造作が区別出来るよう進化するが、生活圏が分離している場合はこの選択圧は働かないと解釈している。科学者の考えることは尽きないことがよくわかる楽しい論文だ。しかし少し考えてみるとこの差は間違いなくゲノムの違いを反映しているはずだ。とすると、この数値化された差を発生させるゲノムの差を調べることもそう先の話ではなさそうだ。昨年10月25日このホームページで顔の形成に関わる遺伝子制御部位を何百もリストしたアメリカの研究を紹介した。この時私は以下のように書いている。  「今回リストされたエンハンサーはヒトでも保存されている。とすると、ヒトのSNPと呼ばれる遺伝子の多様性と、ヒトの顔認証のために積み重ねて来た様々な測定法を組み合わせて、遺伝子と顔の造作との対応関係をつける事が可能になるかもしれない。この点で、次の一手は、ヒトでの研究になる様な気がする。こんな話をすると、すぐデザイナーベービーと関連させて噛み付くマスメディアもあるかもしれないが、個性が対象になると言う点で、夢が将来に拡がる仕事だ。」 この論文を読んで同じ印象を持った。

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