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7月18日バイオペースメーカー(7月16日Science Translational Research掲載論文)

2014年7月18日
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神戸市の企業誘致を手伝うため、世界のペースメーカーの6−7割を占めるメドトロニック本社を訪れたことがある。その時、埋め込み式ペースメーカーで将来他社に遅れをとるとは思わないが、もしペースメーカー細胞移植や遺伝子治療でペースメーカーが再生することになれば、太刀打ちできないのでこの分野の研究にも力を入れていると聞いた。破壊の上にイノベーションが起こることをよくわかっている会社だと感心したことがある。この時の会話が現実になりそうな前臨床研究が7月16日Science Translational Researchに発表された。Cedar-Sinai心臓研究所からの仕事で、「Biological pacemaker created by minimally invasive somatic reprogramming in pigs with complete heart block (完全房室ブロックブタのペースメーカーを最小限のリプログラミングで誘導する)」だ。このグループはTbx18と呼ばれる転写因子遺伝子を導入するだけの単純な方法で、心筋がペースメーカーに変化することを昨年発表していた。今回の研究はその延長で、ヒトへの応用に向け完全房室ブロックを実験的に引き起こしたブタにNOGAと呼ばれる機器を用いてアデノビールスベクターに組み込んだTbx18を右室上部後方に注入しペースメーカーが回復するか、またその機能は正常ペースメーカーと比べた時遜色がないか調べている。最初の前臨床研究としては結果は期待以上だろう。遺伝子導入2日目からペースメーカーが誘導され、自律神経による支配や、運動負荷などに対する反応などほぼ正常のペースメーカーと遜色ない機能を発揮する。また心配された不整脈を発生させると言うこともないようだ。他にもビールスはほとんど心筋に導入され、他臓器に遺伝子が導入される程度は極めて低い。問題はこうして誘導されたペースメーカーの機能は8日目がピークで、その後低下し始めることだ。即ち本当の意味でリプログラムされたわけではなく、導入した遺伝子が働いている時だけ機能を発揮する点だ。この細胞をiSANと呼んでいるが少し誇大広告気味と言わざるをえない。しかし、一つの遺伝子を導入するだけでこの位の効果があるなら、より安定な遺伝子導入法もあるだろう。このグループは短期的効果を逆利用して、感染などにより一度ペースメーカーを外す必要が出た患者さんに先ず利用しようと計画している。論文の調子から見て、臨床研究は近い予感がする。
  1. Okazaki Yoshihisa より:

    このコーナー、バックナンバー検索すると大変面白いテーマがドンドンヒットします。5年程前の話題ですが、あのMedtronicが遺伝子治療研究もやってるとは、さすが、老舗ですね。

    こうした研究から、BioとElectronicsが融合した装置が誕生しそうです。

    破壊の上にイノベーションが起こる。同感です。

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