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7月24日:食料問題に対するScience誌の本気(7月18日号Science誌掲載論文)

2014年7月24日
5月25日サイエンス誌が格差問題を特集し、科学の対象として格差問題を扱う意志を示したことを紹介した。無論、格差問題に留まらない。温暖化問題を初め地球の抱える問題は深刻だ。持続可能な地球維持のための政策には科学的分析が必須と考え,この問題に挑戦する論文を優先して掲載し、トレンドを造ろうとする意志だ。ただ7月22日紹介したように、すぐに想像力豊かな論文が集まるわけではない。他の分野と比べた時論文の質は犠牲になるかもしれない。しかし科学として成熟するまで時間がかかるとしても、それを後押しするのがトップジャーナルの使命だと言う気持ちだ。今日紹介するミネソタ州環境研究所からの論文は、サイエンス誌の意志がはっきりと見える研究だ。タイトルも「Leverage points for improving global food security and the environment(世界の食料問題と環境問題を改善するための攻めどころ)」。実際leverage pointを訳すのは少し難しい。直訳すると梃の原理で少し変えれば大い効果が出る様なポイントと言う意味で使われている。いずれにせよ、食料安保や環境問題に世界全体にわたって平均的な政策を進めるのは現実ではないので、先ず効果の高い所に政策を集中させるとしたら、どこを攻めればよいかについて研究している。詳しい紹介は全て省く。アメリカ、中国、インド、アフリカ、ブラジルなどについていわゆるビッグデータを統合的に解析し、食料増産につながる政策効果の高い地域、食物などを特定するとともに、農業に起因する地質汚染や炭酸ガス排出問題への提言を行おうとしている。最も重要な結果は、中国、南欧、アフリカ、インド、アメリカの農地の中で、小さな努力で食料増産が容易に達成できる地域を特定している。もし世界の全農地の持つ能力の50%まで農産物を増産できれば8.5億人の食料をまかなえるが、増産余地のある農地の半分は世界の農地の5%に集中していると言う結果だ。即ち、適切な政策を集中的に行えば、高い効果が期待できることになる。実際分析から、中国では灌漑水が有効に使われておらず、この点の改善で食料増産が可能だと言った地域に応じた政策も示唆されている。他にも、農業と森林伐採による炭酸ガス排出問題、肥料による土壌汚染問題など、各項目について世界規模の分析が行われており、おそらく請われれば結果に基づいて提言は可能だろう。いつも読み慣れている論文とは大分違うし、実際正確な査読が可能だろうかと首を傾げたくなる論文だ。しかしこの様な論文に触発され、政策提言に直接つながる科学を目指す研究者が増え、更に論文の質が上がると言うサイクルが始まったのかもしれない。折しもアメリカアカデミー紀要のオンライン版に牛肉生産は他の農業と比べて環境負荷が10倍になることを示した論文が掲載されていた。(Land, irrigation water, greenhouse gas, and reactive nitrogen burdens of meat, eggs, and dairy production of the Unites States)。私たちはタバコの危険性、高血圧、メタボと科学を盾に生活改善を迫って来たが、今日紹介したトレンドから、科学が私たちの生活の原罪とも言える核心にまで迫って来た予感がする。しかし、イラク、ウクライナ、ガザでの戦争を見ていると、この論文に欠けている視点もわかる。紛争を停止することでどれだけの食料増産が可能か、そんな論文も見てみたい。

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