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7月25日:統合失調症の早期診断(Natureオンライン版掲載論文)

2014年7月25日
不幸なことだが私が医学生だった頃、精神疾患は社会が造る病気だと主張して、遺伝性があることを公言すると攻撃するグループがいた。私の近くでも、当時ユングの読書会を主催していただいていた精神科の先生がタブーを破ってしまって学生から暴力を受けたことがあった。しかし、統合失調症で言えば一卵性双生児の一致率が50%に近い。間違いなく強い遺伝的傾向があることを示している。しかし逆から見ると、100%でないことは、遺伝子は同じでも他の介入によって病気を防ぐ可能性があると言うことになる。そして介入するためには早期診断を行う必要があるが、現在もなお疾患特異的マーカーは見つかっていない。今日紹介する論文は、遺伝子多型の組み合わせで統合失調症を診断できないか可能性を調べた研究で、我が国の藤田保健衛生大も加わった世界規模の共同研究で、Natureオンライン版に掲載された。また、朝日新聞も7月22日付けで鈴木記者がこの論文を紹介している。タイトルは「Biological insights from 108 schizophrenia-associated genetic loci(108個の統合失調症関連遺伝子座から得られる生物学的示唆)」だ。勿論統合失調症については多くのゲノム解析が行われて来た。ただ、多くの遺伝子が複雑に絡み合って病気が発症するため、候補になる遺伝子多型は多く発見されたが、なかなか理解が進まなかった。この問題に、ならば更に多い数の統合失調症の患者さんの遺伝子多型をしらべてみようという動機で約37000人と言う膨大な数の患者さんの全ゲノム領域をカバーする遺伝子多型を調べ、約11万人の対象と比べたのが今回の研究だ。この中には1235人の親が発症した親子が含まれており、より詳しい解析が出来るようになっている。では規模を上げることで何がわかったのか?先ず、統合失調症に関連すると確認できる多型が存在する新しい遺伝子座が83発見され、全体で108の遺伝子座が統合失調症と関連づけることが出来た。この108の中には元々統合失調症に使われる薬剤標的であるドーパミン受容体を初め、これまでは関連が認められなかった神経伝達に関わるカルシウムチャンネル遺伝子などの多型が含まれている。さらに、発見された多型の見られる遺伝子のほとんどは脳で発現しており、統合失調症に関わるための条件を満たしている。この結果を受けて、この論文でも、また朝日の記事でも、この中から新しい標的が見つかり、治療薬が開発できると単純に結論しているが、本当はそう簡単ではない。先ず、多型と言ってもガンのようにその遺伝子に直接変異が存在するわけではなく、その遺伝子の発現を調節する部位の多型が大半だ。更にそれぞれの遺伝子座の関わり方を調べると、多数の遺伝子が絡み合って病気を発症させていることが数理的解析から明らかだ。しかし、現在の数理的手法では遺伝子間の関係や階層性がはっきりしない。さらに、遺伝子発現に関わる多型ということでeQTL解析で統合失調症の原因となりうる遺伝子がないか調べてもはっきりした結果が得られない。従って、私から見ると今後新しい情報処理方法を開発して、このデータを生かして行く方向の仕事が更に必要だと思う。とは言え、関連遺伝子が108確認されたことで、統合失調症発症リスクを計算できるようになった。これを用いて、デンマーク、スウェーデン、アメリカ、オーストラリアの多型結果を実際の発症と重ね合わせてリスク計算をすると、確かに多くの関連多型が重なるほどリスクが高くなる。3種類の集団を解析しているが一つの集団ではオッズ比が20%に達しており、かなり高い。従って、統合失調症の早期診断と言う意味では大きな一歩だと思う。次に予想されるのは、親が発症した家族に生まれた子供さんを早期に診断し、合理的な介入を行うコホート研究だ。しかし、この様な研究が我が国で可能なのか少し心配だ。もし出来ないとしたら、我が国の精神医学は私が学生の頃とほとんど変わっていないことになる。そうでないことを祈る。

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