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7月30日:毎日記録し続ける科学(Genome Biologyオンライン版掲載論文)

2014年7月30日
今腸内細菌叢研究はトレンドになっている。理由の一つは、次世代シークエンサーのおかげで常在している細菌の種類やその比率を簡単に調べることが出来るようになったことが大きい。一昔前は腸内細菌叢の検査と言うと、先ず細菌を培養して、現れるコロニーの性質を調べて細菌の種類を特定する必要があった。これはかなり専門的な検査で、気軽に行える研究ではなかった。そこに次世代シークエンサーが現れて、多くの細菌のゲノムが解読された。この結果、小さな遺伝子断片があればどの細菌がどの位の比率で存在するのかを調べることが可能になった。必要ならどの研究室でも腸内細菌叢の研究が可能になったわけだ。口内や腸内の細菌叢は私たちの食生活の影響を最も受けている。新しい方法で腸内細菌叢を調べ始めると、思いもかけないことが続々明らかになっているのが現状だ。トップジャーナルに掲載されるこの関係の論文も増えていることは間違いない。ただこれまで紹介した論文は、生活習慣病などとの関係に絞って調べた研究が多かった。今日紹介する論文はこれとは全く異なる大変な研究だ。1年365日毎日毎日便や唾液を採取してそこに住む細菌の種類を調べ、その結果を分析した研究だ。実験する研究者も大変だろうが、毎日サンプルを採取する被験者になった人達も大変だ。マサチューセッツ工科大学からの論文で、Genome Biologyに掲載されている。タイトルは、「Host lifestyle affects human microbiota on daily timescales(宿主のライフスタイルは日々体内の細菌叢に影響している)」だ。研究は簡単だ。毎日採取される便と唾液サンプルからDNAを抽出し、生物の系統関係を知るために使われる16SリボゾームRNA配列を次世代シークエンサーで調べる。勿論日々の体調や病気については全て記録する。ただそれが1年にわたって続くので、データの示し方が難しい。10万サンプルの解析を行ったとあるので、そんなきとくな人を数多く調べたと思うが、論文では2人の経過が紹介されている。それでも示されるデータは正直わかりにくい。間違った解釈をしていないか心配だが、そこを独断でまとめると次のようになる。便や唾液の細菌叢は決まった生活をしていると、全体的には何ヶ月もにわたって結構安定している。アメリカ東部の話だろうが、あまり季節の変化もない。ただ、一つ一つの細菌を仔細に見ると、勢力争いが毎日起こっているのもわかる。この勢力交代はなんと1日単位で起こる。この様な変化に最も影響するのが、前の日に食べた食物繊維の量で、15%の細菌種の勢力に影響している。面白いのは、環境が変わると細菌叢はテキメンに変化する。被験者の一人は研究中に1ヶ月以上の旅行に出かけるが、生活圏の変化はすぐに腸内細菌勢力図の変化につながる。ただ、この変化は家に帰り落ち着いた生活を送るようになると2週間程度で元にもどる。もう一人の被験者はサルモネラの食中毒にかかる。勿論大きな腸内細菌勢力図の変化が起こる。それまで半分を占めていた細菌群が1%以下に落ち、普通なら少数勢力が65%を占めるまでになる。問題は、病気から回復してもこの状態が3ヶ月も続くことだ。この変化が身体にどのような影響があったのか、分析が待たれる。図は理解しにくい論文だったが、腸内細菌叢が確かに毎日の生活のバロメーターになっていることを実感する納得の論文だ。今後10万サンプルの結果に拡大して新しい論文がまとめられると期待できる。ビッグデータは便の中にも転がっている。21世紀はゲノムレベルで一人一人が記録し続けられる世紀になる予感がする。我が国のヨーグルトや乳酸飲料メーカーもこれまで腸内細菌叢の研究を進めて来ていることは聞いているが、この位徹底した研究が行われているのだろうか?実際よく売れている商品では1年に1000億近く売り上げている。利益の一部をマーケティングだけでなく、徹底した科学データ採取に使うことも重要だと思うがどうだろうか?

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