AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 7月31日:悪液質と褐色脂肪細胞化(Cell Metabolismオンライン版(9月号掲載予定)論文)

7月31日:悪液質と褐色脂肪細胞化(Cell Metabolismオンライン版(9月号掲載予定)論文)

2014年7月31日
今日は恐ろしい話だ。ガンも末期になると悪液質と呼ばれる状態に移行する。悪液質が始まると、脂肪組織や筋肉の萎縮が進み、体中のエネルギーが消失し、文字通り骨と皮になり手のほどこしようが無くなる。「ガンが栄養を奪い、食事がとれなくなれば当然だろう」と考えてしまうが、実際には身体全体のバランスが大きく変化し、悪循環に陥ったためと考えられる。今日紹介する論文は、悪液質と言う悪循環の背景に、通常の脂肪組織から褐色脂肪組織への急速な移行があることを示したスペイン国立がんセンターの研究だ。タイトルは「A switch from white to brown fat increases energy expenditure in cancer-associated cahexia (ガンに伴う悪液質には白色脂肪から褐色脂肪のスウィッチによるエネルギー浪費が関わる)」で、9月発行予定のCell Metabolismに掲載された。このグループは、がん細胞を移植されて悪液質に陥ったマウスの体中の白色脂肪組織が褐色脂肪組織に変化することに気づき、これがガンの悪液質の元ではないかと考えた。ガン移植後の様々な時期に脂肪組織を調べてみると、褐色脂肪組織化は早期から始まっている。そして、脂肪組織にUCP1と呼ばれる分子が発現し、ミトコンドリア内でエネルギーを熱に変えてしまうことがわかった。となると、脂肪の燃焼が熱だけに変わり、身体を支える方向に使われない。結果悪循環が始まる。このスウィッチの原因が全身性の炎症にあるのではと疑い、IL6などの炎症性サイトカインが上がっているか調べた所、確かに悪液質のマウスはもとより、実際の患者さんでもIL6が高い。更に、この分子が抑制されたマウスでは、UCP1分子の発現や褐色脂肪組織化が押さえられ、ガンが進んでも体重が落ちないことがわかった。IL6だけが炎症原因ではないが、もし炎症を止められると悪液質の治療が可能だ。他にも炎症によって引き起こされたと考えられる自律神経の興奮を抑制しても、UPC1上昇と褐色脂肪組織化が抑制されることから、悪液質に対する様々な治療可能性が示された。以上のことから、悪液質は慢性炎症と自律神経のアンバランスによって引き起こされる身体の状態で、治療可能であると結論している。この研究は勿論全てマウスモデルで行われている。ただ、悪液質の人を調べると明らかに褐色脂肪組織化が起こっており、以前の研究でIL6を抑制すると悪液質の症状が軽減されることが示されているようだ。とすると、進行がんの患者さんでも活力を取り戻すことが可能かもしれない。褐色脂肪組織はメタボの人にとっては今やあこがれの組織になっている。脂肪を燃やして熱に換え逃がしてしまう。うまい話だ。しかし悪液質と褐色脂肪組織の関係を知ると、身体のホメオスタシスを維持する仕組みを一つの目的だけから考える危険性がよくわかる。いずれにせよ悪液質の治療は是非実現して欲しい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*