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8月6日:遺伝子発現とタンパク質発現を統合する(Nature オンライン版掲載論文)

2014年8月6日
DNAはそれ自身で機能があるわけでなく、コードされた情報が、RNAやタンパク質に翻訳されて初めて機能が生まれる。従って、正常細胞であれガンであれ、ゲノム情報は細胞内のタンパク質の種類や量に反映される。ただ変換は1対1の関係ではなく、細胞に応じた修飾が途中で行われる。このためガンについて知るためには、ガン細胞に存在する全タンパク質の状態を把握する必要がある。これをガンのプロテオミックスと呼んでおり、ガンゲノム研究が進んだ今こそ、ガンのゲノムとプロテオミックスの相関について統合的に調べる必要がある。しかしこれまでゲノムの研究者はゲノムだけ、プロテオミックスの研究者はプロテオミックスだけと分野が分かれてしまっていた。しかし統合は絶対必要だ。ガンゲノム研究最前線第3弾はこの当たり前のことを行ったテネシー州のバンダービルト大学からの論文を紹介する。Natureオンライン版に掲載された論文のタイトルは「Proteogenomic characterization of human colon and rectal cancer (ヒトの大腸・直腸がんのプロテオゲノミック上の特徴)」で、ゲノミックすとプロテオミックスを統合したと言う意味で、プロテオゲノミックという言葉を使って研究を表現している。研究ではゲノムやRNA 発現が既に解析済みの直腸がん86サンプルを集め、細胞内に存在する全てのペプチドの種類と量をLC-MS/MSと呼ばれる質量分析装置を用いて測定し、ガンのゲノムやRNA発現との相関を幾つかの項目について詳しく解析している。その結果次の様な結論が得られている。1)RNAとタンパク質の発現レベルの間に統計学的相関が見られるタンパク質は高々3割で、RNAが多ければ発現する蛋白が多いと言う傾向はあるにしても、RNA発現量だけでガンの性質は考えられない。2)ゲノム上で遺伝子コピー数が増幅するとその遺伝子から転写されるRNA量も上昇するが、タンパク質の量にまで反映されるのはずっと少ない。3)遺伝子のコピー数が増減すると、それ自身だけでなく他の分子の発現に影響を持つ。この様な関係を調べて行くと、細胞内で発現するRNAやタンパク質の多くに影響があるゲノム変化を見つけることが出来る。面白いことに、RNAレベルに変化はなくても、タンパク質の大きな変化につながる変化も特定できる。この研究でも20番染色体上の79遺伝子が存在する領域の増幅によって、HNF4aと呼ばれる腸管発生に関わる分子のタンパク量が大きく上昇していることがわかることを例として示している。ガンの標的探索探索には、ゲノムだけでなくプロテオミックスを統合することが重要であることが理解される。4)これまで遺伝子発現パターンをもとに決められていたガンのサブタイプの分類は、プロテオミックスパターンでも同じように分類できる。5)例えばHNF4a蛋白の上昇は、そのガンが特定のサブタイプに属していることのマーカーとなる。この様な蛋白の中から、ガンの診断や分類を正確に行うマーカーが見つかる可能性がある。例えば、傷の修復で出てくる蛋白が上昇するタイプのガンは悪性度が高い。以上リストした結論を眺めると、特に予想できなかった話ではない。しかし、ゲノムからガンと言う性質がどう発生するのか理解するためには必ず行われなければならない。奇をてらわず、当たり前のことを厳密に行う。この様な研究があるおかげで、ガンの理解も進むことを確認出来た。

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