AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 8月8日:遺伝的モザイク(The American Journal of Human Genetics 8月号掲載論文)

8月8日:遺伝的モザイク(The American Journal of Human Genetics 8月号掲載論文)

2014年8月8日
昨年FOP明石の山本さんに招かれて、筋肉が骨に変わる難病FOPの患者さんの会に出席し、患者さんや家族の方と話す機会があった。当時私は、FOPは代々伝わる遺伝病ではなく、おそらく卵子や精子が作られる時に起こる一回きりの突然変異によって発生するため、確率はどの民族でも200万人に1人と低いと理解していた。あるお父さんから次の子供がFOPになる確率を聞かれ、「次の子供がFOPになる確率は200万分の1で、可能性はほとんどないと言える。従って、安心して次の子供を産んで下さい」と答えた。ただ、AASJの理事で同僚の藤本さんに聞くと、日本にも兄弟に発生した例があるようだ。子供と同じ突然変異をもし両親が持っておれば必ず病気になっているはずで、両親とも健康であると言うことは、まれな突然変異が生殖細胞に発生して子供に伝わった以外考え様がない。どうしてそれほどの偶然が重なるのかといぶかしく思っていた。この問題に対して、もう一つの考え方を示したのが今日紹介する論文だ。テキサス・ベーラー大学からの「Parental somatic mosaicism is underrecognized and influences recurrence risk of genomic disorders(両親の体細胞に発生した遺伝的モザイク現象が子供の遺伝子疾患の繰り返すリスクに影響することが過小評価されている)」と言うタイトルの論文は、8月号のThe American Journal of Geneticsに掲載された。論文タイトルの中にある体細胞の遺伝的モザイク現象について説明しよう。私たちの身体が発生するまでには膨大な数の細胞分裂が必要だ。そして、分裂の度に突然変異は必ず起こる。がんもこうして発生する。もし病気につながる突然変異が発生の初期に起こって、精子や卵子の元になる細胞に伝わると、新しく出来た生殖細胞のなかに、突然変異のある細胞とない細胞が混じって存在することになる。これがモザイク状態だ。両親に遺伝的異常が見つかっていないのになぜまれな遺伝病が複数の子供に発生するのかと言う疑問に対し、この論文は、両親のうちのどちらかの体細胞が遺伝的モザイクになり、生殖細胞にもこのモザイク状態が反映さえているいるためと言う答えを示した。研究では、両親と子供の抹消血が採取され、子供の遺伝子異常が両親の血液細胞の一部に見られないか検討している。モザイクを疑い調べた6家族で25%〜1%までの様々な率で、血液細胞集団に遺伝的モザイク現象の存在が明らかになった。血液細胞のモザイク率が25%、9%と極めて高いケースでは、高い確率で次の子供さんが同じ遺伝子異常を持って生まれてくる可能性がある。従って、FOPのように両親に遺伝異常がない場合も、発生過程でこの遺伝子異常が発生した場合、様々なモザイク率で精子や卵子に同じ遺伝子異常が維持され、それが子供に伝わって遺伝子病になることを必ず疑った方がいいことになる。勿論体細胞がモザイク状態になっていても、遺伝子異常の子供さんが生まれるまで両親には全く異常がない。モザイクが疑われるのは、遺伝子異常の子供さんが生まれてからになる。とすると、次の子供に異常が起こるかどうか、これまでのように「あり得ない確率」で済ますのではなく、モザイクを疑って両親の血液を調べてもいいのではないかと思う。昨年9月29日に書いた「FOPの遺伝」という項目を大至急訂正するつもりだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*