AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 8月10日:ガンは周りの組織を味方にする(7月31日号Cell誌掲載論文)

8月10日:ガンは周りの組織を味方にする(7月31日号Cell誌掲載論文)

2014年8月10日
ガン細胞と言うと、どんな条件でも増え続けるように思うが、試験管内でガン細胞を増殖させることはそう簡単ではない。実際にはガンも周りの組織に支えられて増殖する。一番わかり易い例が血管新生だ。ガンが大きくなるには血管が必要で、多くのがんは血管新生を誘導する因子を分泌する。この分泌因子の機能を抑制する抗体薬(アバスチンなど)は既に臨床で利用されている。今日紹介するMITからの論文は、ガンが周りの組織を自分の都合のいいように再組織化する分子機構の一つを明らかにした研究で7月31日号のCell誌に掲載された。タイトルは、「The reprogramming of tumor stroma by HSF1 is a potent enabler of malignancy (HSF1による腫瘍周囲の間質のリプログラムが悪性化に関わる)」だ。このグループは元々細胞が高温などのストレスにさらされた時発現する熱ショック蛋白HSF1に興味を持っていた。またHSF1を発現したガンは悪性度が高いことも既に知られていた。この研究は、、正常の間質と比べるとガン周囲の間質細胞でHSF1発現が高いという発見から始まっている。モデル実験系で間質のHSF1発現とガンの増殖の関係を調べると、HSF1遺伝子発現とガンの増殖とが相関することがわかった。更に実際のガン患者さんでHSF1はガンの悪性化に関わっているのかも調べている。乳がんや非小細胞性腺癌の組織を調べ、間質のHSF1発現が高いガン患者さんの予後が悪いことを明らかにしている。研究では、間質細胞でHSF1が誘導されると、遺伝子発現のパターンが大きく変化し、これに伴い間質細胞から様々な増殖因子が分泌され、ガンの増殖を助ける可能性を示している。また、その中のTGFβ分子やSDF1分子がガンの悪性化を促進する分泌因子として最も疑わしいことも実験的に明らかにしている。ガンが自分の周囲の間質の性質自分の都合のよいようリプログラムするとは恐ろしいことだ。しかしもしそうなら、血管新生を止める治療法と同じように、HSF1が誘導される過程を止めてやればガンの増殖を止めることが可能になる。ただ残念ながら、この研究ではなぜガンに反応して間質細胞のHSF1が誘導されるのか、なぜTGFβやSDF1がガンの悪性化につながるのかなど、この発見を治療につなげるための肝心の手がかりが不明なままだ。この点が明らかになれば、ガンの新しい治療法が生まれる可能性は大きい。是非治療を目指した研究が後に続くことを期待する。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*