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8月17日:植物では思いがけないことが起こる(8月15日号Science掲載論文)

2014年8月17日
小保方さんはSTAP細胞のことを最初カルス細胞と呼んでいた。カルスと言うのは、植物を傷つけた時誘導される正常細胞が脱分化した多能性細胞の集団で、この細胞の塊から完全な植物をもう一度作る事が出来る。再性能の高い動物でも、同じように分化組織が脱分化した再生芽を作れるが、分化能は限定されており、山中iPSのように多能性段階まで脱分化するわけではない。このように植物は動物には考えられない様々な能力を持っており、カルス細胞も、なんとか動物に植物レベルの能力を与えられないかと言う願いがこもっていた気がする。今日紹介するバージニア工科大学からの論文も、動物では考えられない植物の一つの能力を示す研究で、8月15日号Science誌に掲載された。タイトルは「Genomic-scale exchange of mRNA between a parasitic plant and its hosts (寄生植物と宿主の間で行われるゲノムレベルのmRNA交換)」だ。研究の対象になった植物はネナシカズラで、種から出芽して寄生する植物が見つからないと枯れてしまう、自分では生きられない完全な寄生植物だ。寄生した植物の茎に巻き付き、栄養を吸収することで初めて生きることが出来る。研究は簡単で、ナズナに寄生するネナシカズラ、及びトマトに寄生するネナシカズラを用意し、宿主に巻き付いた部分と、巻き付いていない部分を別々に採取し、各部分に存在するmRNAを次世代シークエンサーで調べるだけだ。驚いたことに、ナズナとネナシカズラの組み合わせでは、宿主に巻き付いている部分のカズラに存在するmRNAの実に半分が宿主由来(トマトとの組み合わせでは15%)だったと言う結果だ。mRNAの移動は双方向的で、カズラmRNAも宿主に移行する。細胞と細胞が結合したなら当然とも思うが、動くmRNAには選択性があり、どのmRNAでも移行するわけではない。ナズナとカズラの間では、数千種のmRNAが、トマトとカズラの間では数百種のmRNAの移行がある。確かに寄生する植物により移行できるmRNAの数がこれほど異なるなら選択性はありそうだ。また移行できるmRNAのコードする蛋白は、代謝に関わる蛋白や、外界の刺激に対する反応に関わる物が選ばれているようだ。大量の情報を一時的に交換し合って、同化しながらしかし互いの独立性は守られるうまく出来た面白い仕組みだ。しかし残念ながら示されている結果はこれが全てで、なぜこのようなことが可能なのか、選択的mRNA移行を調節するメカニズムについて全くヒントが与えられていない。ちょっと審査が甘いなと言う気がするが、この機構が明らかになれば、今躍起になって研究が進んでいる遺伝子デリバリーの新しい方法が見つかるかもしれない。しかし動物ばかり見ていると見逃す生命の戦略は多い。

  1. KEN YAMAZAKI より:

     こういうDNAレベルでの「共生」は興味深いですね。
    動物(昆虫)では、数日前に発表された中鉢淳准教授らによるアブラムシの体内細菌ブフネラから獲得した遺伝子での蛋白還元利用なども、mRNAの選択的双方向移行のメカニズムなのかと思います。

     こういう分子遺伝子の動的関係の研究で、いつも思うのは、分子(遺伝子)単体の調査止まりで、それ以下の(物理的な)関係性にまでなかなか行かないのは、研究範囲が専門外になるからか、それとも分子遺伝子が基底で、それ以下は存在しない(分子伝達のメッセージの意味を考えることは論外?)という”分子遺伝子原理主義”のようなものがあるのかと疑ってしまいます。
    個人的な素人考えですが、分子遺伝子の「選択的」移行のメカニズムについて、
    「選択的」というのは、その両者の間に物理的に(量子レベルの?)「勾配」ができていて、分子(mRNA)はその”レーン”を移動できる型(というかその”レーン”内側の形そのもの)が現出しているだけではないかと思ったりしてまして、分子(mRNA)以下の物理的関係性を調べれるようにならないものかと考えてしまいます。

     STAP細胞については、個人的な(文系素人の)思い付きですが、
    STAP細胞/現象は、細胞単体での多能性幹細胞として見るよりも、細胞社会でのみ成立する代償性増殖/組織修復再生の特殊な(人工的な)形態、つまりカルス細胞塊の亜種としてみたほうがいいような気がしています。
    カルス細胞塊であれば、中心となる死細胞の扱い、カルスの増殖/組織修復を維持するマクロファージの扱いが樹立を左右する条件になるかと思うのですが、
    そこを欠落させて幹細胞単体としてしか焦点を当てていない検証/再現実験では失敗するのでは、と憶測したりします。
    小保方氏が成功したのは、
    ・死細胞を中途で除去せず残し続ける(或いは一度マクロファージに捕食された後に残存する”ゴミ”を抽出再利用するとか)
    ・脾臓周辺部に微少存在する代償性ガン免疫活性(つまり多能性遺伝子に影響を与える)系のマクロファージを技術稚拙さにより?偶然混在させていたから、
    という単純な事だった、のかもしれません・・・

    1. nishikawa より:

      中鉢さんのは水平遺伝子移行ではなかったかと思います。間違っておればごめんなさい。文科系にしておくのは惜しいですね。

      1. KEN YAMAZAKI より:

        すみません、水平感染・水平遺伝子移行の違いもよく分かっていないのですが、
        上記の記事は、動的なmRNAの移動で、中淳准教授らによるアブラムシの方は、過去の共生でブフネラの遺伝子を自身の染色体に組み入れていてその遺伝子で蛋白精製してブフネラへ輸送、ということのようで、蛋白輸送=mRNA移動と思ったのでした。

        1. nishikawa より:

          御心配なく。私の学生さんだった連中よりよくご存知かもしれません。

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