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8月22日:ネアンデルタール人の消滅(Nature誌8月21日号掲載論文)

2014年8月22日
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日本人にとって、ネアンデルタール人の話は遠いヨーロッパの話に聞こえるのか、この話題は我が国ではあまり関心をひかないようだ。しかし欧米では、ネアンデルタール人の報道は今やiPSより加熱していると言っていい。本当は私たち日本人にとっても他人ごとではない。何度も紹介して来たように、日本人にもネアンデルタールの遺伝子が伝わっている。即ち血のつながりがあるのだ。このことを今確信できるのは、ドイツライプチッヒのマックスプランク研究所の所長だったペーボさんたちがネアンデルタール人の全ゲノムの解読に成功したおかげだ。それ以前は、残っている骨の形と、同じ場所から出土する石器等の分析から、おそらくネアンデルタール人と私たちの先祖はほとんど交流がなかったと考えられていた。しかし動かぬ証拠を受けて、今度は考古学が新しい科学を駆使して私たちの祖先とネアンデルタール人との文化交流の可能性について迫ったのが今日紹介するオックスフォドー大学を中心としたグループの論文だ。8月21日号のNatureに掲載されたが、BBCでもすぐに大掛かりな紹介を行っている。論文のタイトルは「The timing and spatiotemporal patterning of Neanderthal disappearance(ネアンデルタール人の絶滅の時期と時間的空間的パターン)」だ。この研究の材料は骨やDNAではない。調べているのは様々な文化を代表する石器だ。ネアンデルタール人も優れた石器を使っていたが、これはムスティエ文化と名付けられている。一方、我々の先祖といえるクロマニヨン人はその石器の形態からオーリニャック文化を形成したことが確認されている。実はその間に、ウルッツァ文化、シャテルペロン文化が特定されているが、これらの石器の作者がネアンデルタールなのか、ホモサピエンスなのか議論が分かれていた。研究では、数多くの箇所から出土した200近い石器の年代分析を、最新の加速器質量分析機を用いてこれまでよりはるかに正確に行うとともに、ベイズ推定法を用いてモデルを作成し、それぞれの文化がどこでいつ始まり、終わったのかを推定している。どうしても断定が難しい考古学の研究と言うこともあって、論文の論調は控えめで、様々な可能性を考慮した書きぶりだ。しかし、この論文の著者の意見は、ムスティエ文化の消滅がネアンデルタールの消滅に相当し、ウルッツァ文化やシャテルペロン文化はおそらく私たちの祖先の産物だと考えたいようだ。重要なのは、3つの分化が地域的には分離していても、時間的にほとんど同じ時期に終わっていることだ。オーリニャック文化が始まる前、ウルッツァ文化とシャテルペロン文化が新たに興り、ムスティエ文化と共存する約5000年、ネアンデルタール人は私たちの先祖と接して生活していたようだ。このことは、ネアンデルタール人が私たちの先祖と出会ってすぐに絶滅したわけではないことを示している。この5000年にどんなことが起こったのか?そしてなぜネアンデルタールだけが消え去ったのか?この共存以降のホモサピエンスの遺伝子解読が行われれば更に面白い物語が聞けるかもしれない。5000年の交流の間に、ネアンデルタール人が言語に必要な象徴を使う思考を身につけたのか?勿論これも最重要課題だ。ゲノム科学と考古学の交流がますます活発になりそうだ。

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