AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 8月24日:同じサルモネラ菌も組織内では多様性を示す(8月14日号Cell誌掲載論文)

8月24日:同じサルモネラ菌も組織内では多様性を示す(8月14日号Cell誌掲載論文)

2014年8月24日
SNSシェア
サルモネラ菌は食中毒の原因としては最も多い細菌だ。勿論抗生物質で治療が可能だが、完全に死滅せず慢性化することがある。あるいは症状があまり強く出ずに菌だけが出続けることがある。そんな時調理に関わったりすると、集団食中毒が起こる。この様な多様性は遺伝子の突然変異で起こると思いがちだが、試験管内で抗生物質抵抗性を調べても変異が見つからないことも多い。おそらく同じ細菌でもおかれた状況で性質の違いが生まれ、慢性化や抗生物質抵抗性が起こったのだろうと想像するが、そのメカニズムを調べることは簡単でなかった。この問題に挑戦し、遺伝的原因なしに生じてくるサルモネラ菌の多様性を示したのが今日紹介するバーゼル大学からの論文で、8月14日号のCell誌に紹介された。タイトルは「Phenotypic variation of salmonella in host tissues delays eradication by antimicrobial chemotherapy(宿主の組織内で生じるサルモネラ菌の性質上の変化が抗生物質の効き目を遅らせる)」だ。しかしどうすれば遺伝的には同じサルモネラ菌内の違いを見つけることが出来るのか?このグループは、サルモネラ菌にTimerと名付けた蛍光標識分子を導入することでこの課題を解決した。TimerはDsRedと呼ばれる赤い蛍光タンパク質の突然変異として見つかった分子で、細菌内で発現した時、異なる成熟経路をとって片方は緑、もう一方は赤の蛍光物質になると言う不思議な分子だ。この時、緑の分子は成熟が早いが、赤の分子に成熟するのに時間がかかる。従って、一つの細菌がほとんど分裂しないとすると、先ず緑になった後、赤の色素が遅れて出て来て混じり合うので鮮やかなオレンジ色に変わる。一方、細菌が増殖していると、分裂後の細胞で新たに作られる分子と、分裂前に作られた分子が混じることになるが、分裂前の分子は倍に薄まっている。それぞれの分子は一定の時間で緑と赤の色素に変化するので、色とその強さを測定すると、細菌の分裂状態を決めることが出来る。要するにこのTimerを使うと、それを発現している細胞の分裂速度を推定することが出来ると理解してもらえばいい。Timerを開発できたことがこの研究の全てだ。実際このサルモネラ菌を摂取すると、増殖速度の異なるサルモネラ菌が組織内で出来ているのが確認できる。組織内で観察すると、確かに場所に応じて違う蛍光色のサルモネラが見つかる。重要なことは、この違いが遺伝子の変異ではなく、細菌の発現するタンパク質のパターンの差に反映されていることだ。即ち、色の違う(即ち増殖速度の違う)細菌を別々に分離してタンパク質の発現を調べると、それぞれに対応する特有のタンパク質発現パターンの違いを特定できる。組織内の細菌の性質が自然に多様化することが目に見える形で示された。次にこの様な多様性を持つサルモネラ菌が組織内で抗生物質にどう反応するか調べると、分裂していない菌ほど抵抗性が高い。しかし分裂しない菌はまれにしか存在せず、実際に慢性化に関わるのが、ゆっくり分裂して抗生物質に適度に抵抗性を持っている、中途半端な性質を持つサルモネラ菌であることが突き止められた。まとめると、組織内の環境の差がサルモネラ菌の多様性を発生させ、抗生物質抵抗性や慢性化の原因になっていると言う結論だ。これまで細菌の多様性と言うと、細菌のコロニー形成能を使った遺伝的変異しか検出できなかった。勿論実際の食中毒を引き起こすサルモネラ菌にはTimerなどは発現していない。しかし、モデル実験系で、多様性を発生させ、慢性化や抗生物質抵抗性に関わる分子基盤を特定できれば、臨床サンプルでも多様化パターンを見いだすことが可能になるだろう。なかなか面白いテクノロジーだと思う。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.