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8月28日:先ずはリプログラムを試してみる(Cell Stem Cell, Nature Cell Biologyオンライン版掲載論文)

2014年8月28日
紹介する論文 1) Generation of multipotent induced neural crest by direct reprogramming of human postnatal fibroblasts with single transcription factor (一種類の転写因子導入でヒト線維芽細胞を神経堤細胞へ直接リプログラムする。) 2) An organized and functional thymus generated from FOXN1-reprogrammed fibroblasts (FOXN1によってリプログラムした線維芽細胞から組織化された機能的胸腺を作る。) 1996年クローンヒツジドリーが生まれるまで、ほ乳動物でリプログラミングは難しいと思われていた。それどころかクローン動物作成は不可能だと言う論文まであった。実際、安定な分化状態を決めている細胞分化に伴う染色体構造の変化(エピジェネティック変化)が簡単に揺らぐようでは、私たちの身体の維持が出来るはずがないと考えるのは当然だ。しかし一旦リプログラミングが可能であるとわかると、今度は培養するだけで血液が神経になったり、果ては血液が卵子になるという論文まで発表された。しかしリプログラミングはそう簡単でない。こんなフィーバーは長続きしなかった。この状況を一変させたのが山中iPSだ。細胞質に特定の分子ネットワークが存在すれば、染色体構造もなんとか変化させられる。この確信が今、線維芽細胞から直接様々な細胞を作成するブームを生んでいる。既に多くの体細胞がiPSを経ずに直接リプログラムされている。今日紹介する2編の論文もこのブームを反映しているが、これまでのように複数の遺伝子を導入する方法とは異なり、誘導したい細胞の分化を決定している最も重要な分子一つを導入するだけでリプログラミングが達成できることを示した点で新しい。最初のJohn Hopkins大から発表されたCell Stem Cellの論文は、ヒト線維芽細胞から神経堤細胞を誘導出来ると報告している。もう一つのエジンバラ大学から発表されたNature Cell Biologyの論文は、Tリンパ球を作る環境を提供する胸腺上皮細胞をマウス繊維芽細胞から誘導した研究だ。詳細は全て省くが、これまでの研究で神経堤細胞分化決定にはSox10、また昨日紹介したように胸腺上皮細胞の分化決定にはFOXN1が最重要分子であることがわかっている。両方の研究では難しいことを考えず、ストレートにこれらの最も重要な分子一つだけを線維芽細胞に導入してリプログラミングが可能か挑戦し、導入後それぞれ2週間、10日で目的の細胞誘導に成功している。山中論文以来、どうしても分子の組み合わせが必要と思っていた先入観が取り払われると、先ず一個の分子からと言う挑戦が増えそうだ。ただ、これらの研究の意義は、一つの分子だけで簡単にリプログラミングが出来ることを示しただけではない。両方ともリプログラミングによって、これまでなかった新しい可能性を開いている。先ず神経堤細胞だが、これは第二の多能性幹細胞と言える細胞で、骨、筋肉、神経、色素細胞など数多くの系列に分化することが出来る多能性の幹細胞だ。これが簡単に作成できると言う今回の結果は、幾つかの系列細胞を作成する新しい方法として発展する可能性があり、再生医学的にも意義が大きい。実際この研究では、神経堤細胞の異常が起こる遺伝病の患者さんの神経堤細胞を誘導し、これを使って病気メカニズムが研究できるか調べている。iPSから誘導した神経堤細胞と比べて全く遜色ない神経堤細胞が誘導でき、病気のメカニズムの一端が再現できるようだ。一方、エジンバラ大学の研究でリプログラムされた細胞は胸腺上皮で、T細胞の長期培養には必須の臓器、胸腺を作るための基本材料だ。リプログラムされた細胞は試験管内でも、また移植しても胸腺の機能を再構築できる。これがヒトでも可能になると、T細胞が作れない多くの患者さんを救う可能性がある。当分このブームは収まらないどころか、加速しそうな2論文だった。ただ、細胞の分化研究を行っていた私としては、プログラムよりリプログラムという風潮が生まれるのではと懸念している。

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