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9月1日:論文は知識とアイデア勝負;4足動物の進化(Natureオンライン版掲載論文)

2014年9月1日

名称未設定 1今21世紀の科学や文明について本を書いているが、論文を書くのとは勝手が違い歩みは鈍い。17世紀ガリレオから初めて、今ようやく18世紀が終わり、ダーウィンにたどり着いた所だ。先週はラマルクについての様々な本と格闘していた。しっかり調べると、ずいぶんラマルクを誤解していたことがわかる。獲得形質は遺伝するとか、目的に合せた身体変化を誘導する力を認める生気論とか、広く出回る説明を鵜呑みにして表面的に見ていたが、今は完全に見方を改めた。彼は、環境決定論者だったようだ。そんな時、環境により必然的に決まる形態について研究しているオタワ大学とマクギル大学からの論文に出会った。論文のタイトルは「Developmental plasticity and the origin of tetrapods(発生の可塑性と四足類の起源)」で、Natureオンライン版に掲載された。この研究では、遺伝子の変化による進化とは別に、身体の構造が必要に応じてどこまで変わるかを調べ、四足類が魚類から進化して来た過程を理解しようとしている。明確な問題を設定し、それに対する豊富な知識とアイデアがあれば、お金を使わなくてもいい研究が出来ることを示す典型だろう。魚類から四足動物への移行過程に対する現代のアプローチは、四足類進化と対応すると思われる現存の魚類、ポリプテルスから肺魚までのゲノムを調比べることが主流だ。確かにここでも紹介したように、シーラカンスゲノムなど研究の進展は著しい。しかしまだ形態とゲノムという物理的ではない性質同士を対応させることはできていない。この研究では、この過程の形態変化に必然的ルールがないかを問題にしている。このためには、水中でも陸上でも育てられる歩く魚が必要になる。この条件にかなう魚として、肺が発達して陸上生活が可能になったばかりの種、ポリプテルスを選んでいる(写真はwikiコモンズより)。実際にはここまでで研究の大半は達成出来ている。実験では、水中で育てた群と、陸上で育てた群の2群にわけ、陸上歩行と言う機能と、それを支える身体の構造について比べている。言い換えると、陸上という環境により決定される必然的形態変化を明らかにしようとしている。結論は明確だ。水中で育ててから歩行させたポリプテルスと比べると、生まれてから陸上で育てたポリプテルスは、歩行のためのヒレの使い方が全く変化し、陸上歩行と言う機能が進化していることがわかる。そしてヒレを支える鎖骨の構造も、この機能を支えることが出来るように変化している。何よりも、陸上で育てるとこの構造の多様性が大きく低下し、同じ形態へ収斂する。一方、水中で育てると形態の多様性は大きい。即ち、機能と形態が一定の状態に収斂しているのだ。最後に、この収斂へと向かう形態が、デボン紀四足動物進化の過程で起こった形態変化、即ち化石に残るケイロレピスからエウステノプテロンに至る鎖骨進化とそっくりであることを示している。この論文ではこの結果を、「形態のこの可塑性が、必ず遺伝的基盤を持つ大進化にも貢献していると考える」と淡々と述べるだけで、雄弁に議論を展開するのは避けているようだ。しかし議論を展開しなくとも、著者達が込めた気持ちは理解できる気がする。私は読んだ後、ゲーテからラマルクに至る(異論はある分類法とは思うが)形態の機能的必然性を中心においた進化思想と、ダーウィンに代表される偶然的多様化を中心においた進化思想がもう一度互いにまなざしを交換している様な興奮を感じた。形態も機能も、そして遺伝情報も非物質的性質だ。とすると、この非物質的性質の相関を、物質的性質を通して説明することが21世紀の生物学の課題だ。21世紀に向かって生物学が着実に進んでいると言う実感を持った。


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