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9月6日:リプログラミングは効率より質?(9月4日号Cell Stem Cell掲載論文)

2014年9月6日

小保方さんのSTAPに日本中、特にメディアが大騒ぎした一つの理由は、記者会見でSTAP法によるリプログラミングの効率が、山中法の100倍も高いという宣伝文が配布されたせいだと思っている。勿論これは間違いだった。しかし当時の報道ではそれが疑われることなくそのまま掲載され、少し心配になった私はこのホームページで苦言を述べた。勿論私の苦言など誰も聞きはしないが、今日紹介するJaenisch研究室とエルサレム大学からの論文を読めばリプログラミングの効率で大騒ぎすることのバカさ加減がわかるはずだ。論文のタイトルは「The developmental potential of iPSCs is greatly influenced by reprogramming factor selection (iPS細胞の分化能はどのリプログラム因子を選ぶかによって大きく左右される)」で、9月4日号のCell Stem Cellに掲載された。私も個人的な付き合いが長いのでよくわかるが、山中iPS論文に最もショックを受けたのはJaenischだろう。実際私とEdison Liuが主催したシンガポールのシンポジウムで、若手研究者に仕事以外の話をしてもらった時、体細胞を直接リプログラムする事が自分の夢だと率直に話してくれた。しかしそれを一番に成し遂げたのは山中さんだった。その後の彼は決してめげることなく、リプログラム過程を徹底的に解析し、完全なリプログラムのための方法開発に焦点を絞って、精力的に論文を生産している。今日紹介する研究は、リプログラミングが始まって、転写ネットワークが変化する間に発現してくる山中因子以外の転写因子の組み合わせを用いてリプログラミングが出来ないかを調べたものだ。この研究の目的の一つは、彼らがリプログラム過程の解析から導きだした仮説の妥当性の確認だが、もう一つはともかく山中因子を全く使わずリプログラムが出来るかを確かめるためだ。経緯はともかく、これまでの膨大な研究から山中4因子の一つSox2の下流で活性化される因子として同定されたEsrrb, Sall4, Lin28に、多能性に必須のNanogを加えて線維芽細胞に導入してリプログラムが可能か調べている。答えは当然イエスだ。勿論多能性細胞では最終的に山中因子の幾つかが発現する必要がある。これについては、ベイズ推計学などを駆使してともかく山中因子を導入しなくてもリプログラムの過程で誘導可能であることを強調している。ともかく、この4種類のnon-山中因子を導入すれば、効率は極めて低いが、iPSが出来る。それどころか、多能性の最も厳格なテストを使ってリプログラムの質を調べ、新しい方法で出来たiPSが、山中因子が含まれた遺伝子セットで作ったiPSより質的に優れていると結論している。詳しくは述べないが、論文では、リプログラムの完全さ、ゲノムの安定性等、様々な基準を使って、これでもか、これでもかと新しい方法で出来たiPSの方が質が高いことを強調している。文中で山中iPSはpoor-iPS、新しい方法によるiPSはhigh quality iPSと決めつけており、余りに攻撃的な論文で辟易する。さらに驚くことに、山中論文は最初の論文も含めて全く引用していない。要するに、体細胞リプログラミングという可能性を拓いたのは山中さんだが、どの方法がいいのかはまだまだ勝負がついていないと叫んでいるようだ。とは言え、肝心のヒトではこの方法では効率が低すぎてまだiPSは作成できていない。しかしこれも、山中因子なしでいつかは何とかなると本音を漏らしている。しかし、この様な攻撃的論文を日本のマスメディアはどのように扱うのだろうか?マウスでの戯言と無視するのだろうか。あるいはSTAPの時のように、大変だと驚くのだろうか。私自身はJaenischも科学議論の一線を越えてしまったのではないかと心配している。


  1. 橋爪良信 より:

    研究成果の評価には、新規性と独自性に根ざす学術的な尺度と、社会貢献に繋がる有用性の尺度の二面性が存在する。優れた研究成果とはその二軸を満足させるものであるという価値観が主流になりつつあるのだろうか。
    研究者には、あくまで客観的な視点での自己評価、マスメディアには上記二面的な視座に立った正確な分析と評価を期待したい。
    論文誌の掲載コンテンツは、知名度を上げ、購読者を増やし、ひいては高いインパクトファクターの獲得につながるのだろう。しかし、論文誌は、学術的な価値観での評価に特化すべきではないのだろうか。競合研究同士の実用性を含めた優劣は、実用化を担う産業界と、その恩恵を受ける社会が下すべきものである。

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