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9月8日:正直ものを脳から見分ける(Nature Neuroscience誌オンライン版掲載論文)

2014年9月8日

高次神経機能にどの脳領域が関わるかについては、脳出血や外傷によって局所的に脳組織が失われた患者さんを使った研究に頼る所が大きい。特に、やる気があるかとか、道徳観などと言った人間特有の機能については、これ以外のアプローチは限られている。9月3日号のNeuron誌(83、1,2014)に、様々な高次機能に関わる事がわかっている前部前頭葉(PFC)の障害に起因する症状についての詳しい概説が掲載されていた。勿論わざわざ総説を読まなくとも、神経科学者で医師のアントニオ・ダマシオが書いた「デカルトの誤り」には、PFCに外傷を受けた後、性格が変わってしまった症例などがわかり易く紹介されているので推薦する。しかしこの様な症例に関する論文や本を読むと、道徳観に関わる様な人間特有の脳機能を調べる場合、まず客観的検査法の開発が重要である事がわかる。今日紹介する論文は、正直さや利他性に関わる道徳観を客観的に調べるゲーム式テストの結果を、PFCの器質的障害と関連づけようとするバージニア工科大学からの研究で、Nature Neuroscience誌オンライン版に掲載された。タイトルは「Damage to dorsoateral prefrontal cortex affects tradeoffs between honesty and self-interest(前部前頭葉背側部の障害は正直対自己中心的態度の間の立ち位置選択に影響する)」だ。ここで使われているテストは、シグナルゲームと呼ばれるテストで、わかり易く言うと被験者が何かを売る店の主人になって客に商品を勧めると言う状況を考えればいい。勿論売った時どれだけ儲かるかは自分しか知らないとすると、勿論もうけの薄いものより、多いものを売ろうとする。ただ、普通の人は一方的にもうける事には罪悪感を感じるのが普通で、客の得になるよう振る舞う事も多い。この様なゲームを行うと、正常の人だと客も利益率など情報を全て知って選ぶ場合と比べた時、決して大もうけする事はないのだが、この道徳観が欠如した人では大もうけすると言う結果が出てくる。こんなテストを、正直さに関わるとこれまで考えられて来た前部前頭葉の背側部、及びそれより前方の眼窩前頭野に障害をもった患者さんに受けてもらい、脳障害の影響を調べている。結果は明確で、正常人は予想通り大もうけしない。また、これまで正直さに関わるとされて来た眼窩前頭野の障害を持っている患者さんも大もうけしない。しかし前部前頭葉背側部に障害があると、正直に客に情報を伝えないことで大もうけすると言う結果だ。結論的には、正直かどうかの客観的テストは可能で、これに関わる脳領域も特定できると言う面白い結果だ。ただ、読後感は複雑だ。もし客観的に正直かどうかを知るテストが本当に開発されたとして、このテストの結果をもとに人を選別していいのか?また、これに関わる部位が障害されているからと言って人を選別していいのか?是非、いい人と悪い人を区別して選ぶべきだと言う人に、この質問を投げかけてみたい。


  1. 橋爪良信 より:

    (西川先生、あまりに不適切でしたら掲載却下ください)
    法学を学び始め、刑法の講義の際にふと思い出しました。  PETの研究に携わっていたころ、攻撃性に関するキャラクターの定量評価ができるかもしれない中枢性のプローブが研究されておりました。
     その時は、脳内アナボリックステロイドのレセプターをPETイメージングで描出するものでしたが、人格決定に関連する各種レセプター、トランスポーターなどの中枢性PETプローブが開発され、PETイメージングに関連付けた行動学的な基礎研究が進めば、刑法犯罪の容疑者・被告人の責任能力の判定・量刑の決定、服役者の更生の指標に活用できるのではないかと。
     人間が人間を裁く、最も厳しい判断を要求される場でその一助になりうるか?
     人権、倫理、刑法学、犯罪学、、あらゆる視点からの議論を要するのは当然ですが、そのような時代が来るかもしれない。

    1. nishikawa より:

      差別をする代わりに、甘んじて受け入れられる科学を確立したいです。

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