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10月4日:進化と可塑性(Natureオンライン版掲載論文)

2014年10月4日
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ラマルクと言うと「獲得形質の遺伝」仮説と結びつけられているが、彼の主張の最も重要な部分は、集団が環境にフィットすると言う性向を持っていると言う考えだ。勿論この考えも、選択されたクローンが拡大すると言う一般的自然選択説とは根本的に異なる。とは言え、集団が全体として環境にフィットする事はないのか聞かれると、可能性はあると思わざるを得ない現象は多い。例えば発生は一個の受精卵から始まるクローナルな過程だが、複雑な個体ほど発生過程で可塑性を示す。このように進化にとって、対象の可塑性をどう扱うかはなかなか難しい問題だ。今日紹介するピッツバーグ大学からの論文は、社会生活を営むクモの社会構造全体が環境とフィットする集団適応を扱った研究で、Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Site-specific group selection drives locally adapted group composition(グループ全体の選択がグループ内の構成の適応に関わる)」だ。この研究はAnelosimus studiosusと呼ばれるヒメグモ集団を対象としている。このクモはゴルフボール大から、大きい場合は軽自動車位の大きさの巣を共同で作る。アリと違って、同じ巣には複数の親から生まれた個体が共同生活を行ない、また明確な役割分担はない。代わりに雌が攻撃性の高い雌と、おとなしい雌に分かれている。この研究では先ず、食料の多い条件のいい環境と、悪い環境の巣の中のクモの個体数と攻撃的雌と穏やかな雌の比率を調べている。その結果、条件のいい環境では大きい巣になるほど攻撃的雌が多くなる。一方悪い環境の巣では大きい巣になるほど穏やかな雌の比率が多くなる事を見いだしている。次に同じ場所から採取して来た集団の、攻撃雌対優しい雌の比率を様々に変化させ、異なる環境に置いて集団構成の変化を調べている。最初の世代が完全に死滅して新しい世代に変わった2世代目で調べると、最初の比率とは無関係に環境に合致した雌の比率と集団の大きさが決まる傾向がある。まさに、環境に集団がフィットすると言う結果だ。ただ、それぞれの集団にはすでに一定の遺伝傾向が存在している事も確かで、環境が悪い方から良い方、あるいは逆と大きく違っている場所に移した集団は、どうしても新しい環境より、古い環境での構成をとりたがる傾向があると言う結果だ。示されているこの2つの結果は、一見矛盾するように見えるが、結論として、1)環境が集団の成分構成を決める事、2)決められた性向は集団として受け継がれると言う結果だ。ラマルクはダーウィンと異なり、無脊椎動物を研究していた。ひょっとすると、同じ様な観察に基づいて彼の理論が生まれたのかもしれない。一方この論文について言うと、このクモの習性についての説明が少なく、生物学として重要な現象を扱っている割には議論が浅い。まあ、面白い現象ですよと言う程度の論文だろう。しかし最終的な比率はどうして決まるのか?集団が集団として選択されるメカニズム何か?興味は尽きないが、完全にメカニズムが解明されると、期待はずれで終わるのではと思うのは、私がひねくれているからだろうか。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」

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