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10月20日:空間の記憶(Nature Neurosceinceオンライン版掲載論文)

2014年10月20日

実を言うと今年のノーベル医学生理学賞については、受賞者もその仕事も全く知らなかった。受賞理由には、positioningが科学だけではなく、哲学の問題であった事が強調されている。おそらく、空間が経験(物)を媒介として認識されるとするロック、ヒュームと、空間認識は経験ではなく先験的に備わっている直感形式だとするカントの議論が念頭にあるのだろうが、哲学議論を持ち出せば科学に箔がつくと言う考え方はいただけない。しかし全く知らなかった分野と言う事で、関連する論文が出ればと待っていた所、Nature Neuroscienceにペンシルバニア大学のグループからの論文を見つけた。タイトルは「Anchoring the neural compass:coding of local spatial reference frame in human medial parietal lobe (神経コンパスを支える:人間の中頭頂葉は局所の空間を参照する形式をコードする。)」だ。ただ、読み始めてすぐ失敗したと思った。最近は認知や心理学の論文に頭がついて行くようにはなって来てはいるのだが、今回は困った。目的、実験系、結論などは概ね理解できるのだが、最終的な実験的詳細がイメージできていない。従って、理解できていない所もある事を断って、結論だけまとめることにする。この研究の対象は人間だ。場所記憶に必要な要素を調べるために、公園の中に建っている内部の構造はほとんど似ているが入り口の形などで区別可能な4つの博物館をコンピュータ上にバーチャルに構成する。それぞれの博物館には誰でもが知っている物品(例えば椅子)が陳列物として16個づつ展示されている。それぞれの美術館の入り口は東西南北に向いており、それぞれ向き合っており、中に入っても頭の中で東西南北を判断できる。研究では、被験者にテレビ画面上でバーチャル博物館を訪れてもらい、時間をかけて各博物館の中の展示物の位置を覚えてもらう。覚えた後、今度は指示に従って特定の場所に立った状況を頭の中で想像してもらった上で、陳列物を2種類指定して、どちらが被験者から見て右か左かを答えてもらうと言うのが課題だ。要するに、公園の入り口にいる私は、東西南北などを頼りにグローバルに博物館の位置決めをする。一旦博物館に入ると、もう東西南北は関係なく、部屋の中の様子で位置決めをする。そして最後に自分の身体を基準に右か左かを決めている。ある陳列物を見に行く事を頭の中で想像できるが、その時少なくとも3種類の情報に従って陳列物の位置を判断していると言うわけだ。実験ではこの3つの認識様式のどれを使っているかを区別できるように指示を出して全て頭の中で思い出してもらい(この詳細がわかりにくかった)、それぞれの様式に頼って判断が行なわれる時脳のどの場所が興奮するかをMRIで調べている。結果は、身体を基準に方向性を判断するときと、部屋の様子から場所を決めるときはretrosplenial complex(脳梁膨大後部皮質)が興奮するが、グローバルな位置を決める時に働く場所は特定できないと言うものだ。1971年のオキーフの論文に目を通したが、その簡潔さと比べると、今日紹介した研究はどうしようもないほど複雑だ。このグループがこの分野でどの位影響力があるのかは知らないが、場所記憶を人間で調べるのがいかに大変か良く理解できた。先ずロック、ヒューム、カントの出る幕はなさそうだ。


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