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10月27日:嗅覚受容体の選択(10月23日号Cell誌掲載論文)

2014年10月27日

免疫担当細胞も嗅細胞も化学物質を探知する仕組みだ。細胞上での化学物質を探知するのは、抗原に対する受容体であり、嗅覚受容体だ。ただ探知した後の細胞の反応は全て同じで、従ってこの反応は特異的な認識を一般的な細胞反応に転換する事で行なわれている。このため一つの細胞は一つの受容体だけを発現するよう制限されている。抗原受容体も、臭い受容体もゲノム中には1000種類以上存在する。このため、一つの受容体を選んで、他の受容体が発現できないように抑制するフィードバックメカニズムが細胞に存在している。嗅覚受容体でも、トランスジェニックマウスを用いた仕事などから、一つの受容体がオンリーワンとして選ばれ、その分子が発現すると、それがシグナルになって染色体構造を変化させ、他の全ての負け組受容体の発現が抑制される仕組みになっている。しかし、最初に一つの受容体だけが選ばれオンリーワンとして君臨できるのかの仕組みは良くわかっていなかった。今日紹介するコロンビア大学からの論文はこの謎に挑戦した研究で、10月23日号のCell誌に掲載された。タイトルは「Enhancer interaction networks as a means for singular olfactory receptor expression(エンハンサー相互作用ネットワークが単一の嗅覚受容体の発現の手段になっている)」だ。タイトルにあるエンハンサーとは、遺伝子発現を正に調節するためのゲノム上の領域で、その領域に様々な分子が結合し遺伝子の発現を高める役目をしている。論文を読むと、このグループは本当にあらゆるテクニックを駆使してこの問題に取り組めるプロ集団である事がわかる。まず、ゲノム内でエンハンサーとして働いている部分を特定する(DNAse感受性領域)方法と、染色体構造を調べる方法を組み合わせて、嗅覚受容体に関わるエンハンサー部位を35種類特定する。次にこの中から嗅覚受容体エンハンサーとして活性のある部位をゼブラフィッシュを使って12種類特定する。その上で、この12種類の部位が嗅覚細胞でどう働いているかを調べる。ただ、嗅覚細胞は何千種類もあるため、特定の受容体を発現する細胞だけを集める必要がある。この目的のために、ある受容体を発現する細胞が蛍光を発するマウスを作成し、このマウス鼻粘膜から特定の受容体だけを発現する細胞をセルソーターで集めて、この受容体の選択にこのエンハンンサーがどうか変わっているか検討している。この時に用いた方法が、4C-seqと呼ばれる方法で、この受容体発現に関わるために集められた全てのエンハンサーを特定する方法だ。この結果、単一の嗅覚受容体の発現には数カ所に散らばっているエンハンサーが集まって協力している事がわかった。実際、核内でそれぞれのエンハンサー部位が一か所に集まってくるかどうかを調べるために、FISHと呼ばれる方法で、別々の染色体上に離れて存在するるエンハンサーが受容体遺伝子の近くに集められている事を示している。また核内3次構造が維持できない様、嗅細胞で遺伝子改変すると受容体の発現がなくなる事も示している。まとめると、発生過程ではそれぞれの受容体が自分の近くにエンハンサーを幾つ集められるかの競争を行っており、必要な数のエンハンサーを最も早く自分の近くのエンハンサーに集められた受容体だけが勝ち組として発現でき、今度はその受容体からのシグナルを介して他の受容体遺伝子を抑制すると言うシナリオが、嗅覚受容体が一つだけ選ばれる仕組みとして提案されている。結局オンリーワンを選ぶには、競争に頼るのが最も安全なだというのが生命の原則の様だ。しかし同じ事はこの論文そのものにも感じる。染色体構造解析を中心にここまで多様な最新の技術を駆使できる研究室はそう多くないだろう。エンハンサーを集めるのと同じで、この様なテクノロジーを一点に集中させて競争に勝つ典型がこの論文に見られる。これに若手が対抗するには、自発的に離れた所に散らばっているエンハンサーが集まる仕組みを作るべきだろう。これほど手の込んだ研究には往々にして穴がある事が多い。若い人からまた違ったシナリオを聞ける事を願っている。

 

 


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