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10月29日:リアルタイムで進化を観察する(10月24日号Science掲載論文)

2014年10月29日
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進化論は証明が難しいと考えている人が多い。その理由は種分化過程に長い時間が必要で、実験的に再現する事が困難だからだ。実際ダーウィンの種の起原の1章が遺伝可能な形質の多様化について育種の例を挙げているのも、進化過程を自分の目で確認できる可能性を強調するためだ。大腸菌を使った研究を見てみると、全く新しい形質の出現を記録したLensky達の研究がある。2012年Natureに掲載された論文だが、33000世代、何と25年を経てこれが可能になった事を報告している。(詳しくは私が生命誌研究館ホームページに連載している「進化研究を覗く」第6話を読んで下さい)。しかし、目撃出来たとは言え、25年大腸菌を飼い続ける研究者魂には頭が下がる。今日紹介するハーバード大学からの論文もその意味では長期間の観察を続けた点では称賛に値する。タイトルは「Rapid evolution of a native species following invasion by a congener (同種の侵入後起こる固有種の早い進化)」で、10月24日号のScienceに掲載された。研究ではフロリダ州に侵入したキューバのトカゲによって、固有種のトカゲに起こってくる足の変化を調べている。フロリダのトカゲは緑色のトカゲで、外来種の侵入がないと地上から木の上まで広く分布している。この外来種のいないフロリダの3つの島に、1995年、このグループは茶色の地上に住むキューバのトカゲを移植して様子を見た。同じ様な3つの島はそのままにしてコントロールとして観察している。すると、同種の競争が起こって、緑のトカゲは地上から追いやられ、木の上で生活するようになる。実際この変化は外来種を移植後2ヶ月で起こるため、進化と言うより適応だ。しかし、3年位すると、住む高さは外来種の有無で60cmも違ってくる。次に、2010年になってから、今度はトカゲの身体の変化を調べ、高い木の上に追いやられたトカゲは指の裏が厚くなり、またギザギザも増えている。即ち枝につかまるための身体変化を起こしている。これが実際に遺伝する変化かどうかが最後の問題になるが、それぞれの島から卵を集め、それを研究室の庭で孵化させてみても、同じ身体変化を受け継いでいると言う結果だ。他にも色々実験をしているが、15年、20世代程で遺伝可能な同じ形態変化が、独立した島で起り得ると言うのが内容の全てだ。残念ながら実際この変化がどの遺伝子変異に基づくかなど全く研究されていない。15年間ご苦労さん。新しい実験系を作ってくれて有り難うと感謝を込めて掲載しているのだろう。実際、遺伝的変化か、世代を超えるエピジェネティック変化か、あるいは両方が合わさった変化かなど解明しなければならない点は多い。ただ、このグループが面白い材料を手にした事は確かだ。苦言を呈するとすれば、今回の実験も外来種を移植すると言う極めて人為的なモデル系を用いている事だ。育種であれば金魚でも鳩でも遺伝可能な形質の出現を目撃する事は容易だ。種の起原の第一章を引用して終わろう。「・・・最高の育種かであるサー・ジョン・セブライトは、ハトに関して、『どんな羽でも3年あれば作れるが、頭とくちばしだと6年かかる』と吹聴していた。」。(光文社古典新訳文庫、種の起原、渡辺政隆訳)

  1. 素人 より:

    とても面白い研究ですね!
    育種は人為的にある形質を持つ個体同士をかけ合わせていくことで子孫がその形質を強く持つようになるのだと思いますが、今回のトカゲの実験では何が起こったのでしょう。自然選択論のように、木登りが得意なトカゲ(すなわちそのような形質を持つトカゲ)のみ生き延びて子孫を作ることができたと考えるのでしょうか。そうだとすると、外来種導入前に各個体間でその形質にどれほどのバラツキがあったのでしょうか。それらのバラツキというのは遺伝子配列の違いが生み出しているのでしょうか。
    とても好奇心をそそる研究だと思いました。

    1. nishikawa より:

      木の上に追いやられるのは実験後すぐですから、元々機能は持っています。残念ながら、経時的な身体測定が出来ていません。また、習性(例えば生殖行動を高い場所で行なうとか、雄雌の出方。爬虫類の多くは孵化時の温度で雄雌が決まる事もあります)についても詰めが甘いです。ただ、ダーウィンの頃と違って今は遺伝子で明らかな差があるかを調べる事が出来ます。何も起こらなかった島と比べる事がこれからの課題でしょう。他にも世代を超えるエピジェネティックな変化とゲノム変化が共同するなど面白い可能性があり、いい系が出来たと言う意味ではサイエンスに掲載してもいいと思います。

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