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11月16日遺伝子検査の有効性を検証する(PlosOne11月号掲載論文)

2014年11月16日
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YahooやDeNAが個人向け遺伝子サービスを始めた今年は、我が国のDTC (Direct to consumer:個人向けの遺伝子サービスをこのように表現している)元年と呼んでいいかもしれない。しかし、DTCに対しては様々な批判がある。ここでも紹介したが、年齢を重ねると遺伝的な傾向は生活習慣などで変化したエピジェネティックな傾向にマスクされてしまう。他にも、一般の人のゲノムに対する理解がどこまで進んでいるかもわからない。このため、DTCを商業的に提供することを規制すべきであるという声が様々な筋から聞こえてくる。しかし、はっきり言ってどちらの意見にも一理あり、結局議論を続けるしかないと思う。ただ大事なことは、議論を常に科学的土俵の上で行うという点だ。欧米では将来を見越して、DTCからリスクを知ることで私たちの生活態度が本当に変わるかどうかを調べるための臨床研究が行われ、論文も出始めている。例えば診断や治療について常に検証を怠らないコクラン財団ではすでに遺伝子診断に基づくアドバイスが生活習慣を改めさせられるか調べた研究を行い、効果がないと厳しい結論を出している。今日紹介するトロント大学からの論文は、コクラン財団の調査を踏まえた上で、自分の遺伝子を知ってアドバイスを受けた方が、知らずに一般的栄養指導を受けるより効果があるかどうか調べた研究で、11月号のPlosOne誌に掲載された。タイトルは、「Disclosure of genetic information and change in diet intake: A randomized controlled trial (遺伝情報の開示と食習慣の変化:無作為化比較研究)」だ。研究では呼びかけに応じた1600人ほどのボランティアの中から、最終的に様々な条件に適った157人を選び4種類の遺伝子検査を行っている。遺伝子は、カフェインを摂りすぎると心筋梗塞になる危険がある遺伝子、ビタミンC欠乏症に陥る遺伝子、糖分の摂りすぎになりやすい遺伝子、そして食塩を摂りすぎると高血圧になる遺伝子が選ばれているが、だいたいそれぞれの検査で50−70%の人がリスク遺伝子を持っている。この人たちを無作為に2群に分け、片方には遺伝検査の結果リスクがあることを知らせ、栄養指導を行い、もう一方には結果を知らせずに栄養指導を行い、1年間経過を観察し、食生活を変えるかどうか調べている。結果は、最初の3種類の遺伝子については遺伝子検査結果を教えたか否かにかかわらず、実際の食生活はどれもほとんど変わることはなかった。一方、食塩を摂りすぎると高血圧になりやすいACE遺伝子については、遺伝子検査の結果とリスクを知らせて指導すると、食塩摂取量を1日1.5g以下に制限した人が、遺伝子検査結果を知らせない場合より1.5倍ほど増加し、はっきりとした有意差が出たという結果だ。この結果は、心筋梗塞や、ビタミンC欠乏症のようなあまり身近でない病気については、諦めるのか、信用しないのか、指導を受けても食事生活を変えることはあまりない。一方、高血圧のような身近な病気だと、DTCが確かに効果があることを示している。これに習って、我が国でもDTCの効果について議論するとき、効果の検証をしっかり行い、エビデンスに基づいた議論が行われることを期待する。間違っても、有識者がエビデンスのない意見を押し付けるということはやめたほうがいい。一方、リスク管理に有効としてDTCを提供する側は、結果に応じて様々なアドバイスを提供できる体制を構築するよう努力することが必要だろう。さて私の意見だが、役に立つ、立たないを問わず、個人ゲノムを自分の意思で読むことが、21世紀では当たり前になると確信している。この観点から、是非議論を進めて、我が国でもDTCを根付かせるべきだと思っている。

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